第6話:トラブルも冒険

 BWスタッフデータを事細かにチェックすると、適材適所と判断された2名のスタッフの名前が挙がった。

 園内パフォーマー:ピエトロ・コンフォルト アート【ノーマッド】
 ファンタジーエリア案内:小波織絵(こなみ おりえ) アート【ざくろ】

「小波織絵は、ザスタにアート【ざくろ】を憑依させ≪測量≫を開始」
「ピエトロ・コンフォルトは、カドルにアート【ノーマッド】を取り付け、生徒達の姿が見えたら≪測量≫開始と同時にアタック」


「アート調査、裏コードNo5≪測量≫展開開始!」











 ボス戦闘の場合では【トラップ発動】と云うシステムが適用され、通路と退路を塞がれると云う仕様でボス戦に挑む事になっている。
 普段はトラブルなどが起こった時の為に、どのエリアにも非常口が用意されている。
 しかし、今は硝悟の指令により、その非常口も塞がれたまま。



 ぴよぴよ組。
 藤山遊菜。ジル・ミスティレッド。透波清正。ゲストにBWデザイナーの神坂潤。
 4人は中ボス【ザスタ】の居るエリアにやって来たのだが、そのザスタが突然暴走を始めた。神坂の指示で車外に避難したものの、今にも襲いかかろうとしているザスタと対峙している。

「・・・・・・赤月、防御は停めるな!!」
『承知しております。』
「ピヨ助、ピヨ助返し続行!!」
『ピヨ~~~~!!!』

 防御を清正と遊菜が買って出たおかげで、暴走したザスタの攻撃から身を守る事に成功している。
 ジルも風属性の防御スキルを持っているが、遊菜と清正の放っている防御壁は土属性なので、この2属性を組み合わせると相殺してしまう恐れがあったのだ。
 そしてもう一つ、このアトラクションでは能力抑制装置が働いているので、現在の全員のアート能力レベルは最低値まで下がっている。
 故に、レベル最低値と云う防御壁が破られるのも時間の問題かも知れない。

「ねぇMr神坂。さっき、マントでアイツの一撃を受け止めてたじゃない?アレって必殺技?」
「いや・・・・・・普通のガードだぜ。オレと華翔のアレンジ技だな」
「ジル殿。何か・・・・・・光明が見えたのか?」
 赤月の一部である日本刀・宵闇を駆使しながら防御に徹している清正が、声だけジルに向けて尋ねる。
「・・・・・・ま、そんな感じかしら?もっとも・・・・・・時間が無いから、ぶっつけ本番!Mr神坂、さっきの技でサポート頼めるかしら?」
「え?オレ?あ、あぁ・・・・・・構わないが、一体どうするつもりだい?」
「ジョーカー。アイツの視界を邪魔する程度で攻撃してくれない?外れても構わないわ。Mr神坂は、さっきみたいにアイツの攻撃をガードしておいて欲しいの。むしろ、ガードだけに100%の力を使ってもらえるかしら?」
『外れても?まぁ、軽くでイイならやってやんよ』
 ジルが抱えている鳥篭型のアート・ジョーカーが淡く光り、臨戦態勢に入った。
 次いで、神坂がマント型アートの華翔を身に纏わせ、意識集中をする。
「キミのサポート役って事だな。・・・・・・けど、危ないと思ったら、すぐに逃げるんだぞ」
「ジルちゃーん、無理しちゃダメだよー」
 清正と防御に徹している遊菜が慌てて声を掛けた。
「遊菜、ノープロブレムよ。・・・・・・ジョーカー、風の白刃を!!」
『よっしゃ、喰らえ!!』
 ジルがジョーカーを掲げると、鳥篭のドアが開き、数発のカマイタチが放たれるとザスタの視界を妨害する。
 すると、ザスタの動きが一瞬だけ停まったが、再び棍棒を振り下ろした。
「Mr神坂!!」
 ジルの呼びかけと同時に、神坂がマント型アートの華翔を翻しながらザスタの前に現れる。
「ぐ・・・っ、うおおおおおおおお!!」
 気合一発、華翔が棍棒を包み込むと、棍棒の動きが完全に停まり、器用に棍棒をマント部分で奪い取った。
 これで危険は少々緩和されたと思われる。
「よっし!!清正、遊菜!アイツの暴動源を探して!!」
 ジルの指示に2人は顔を見合わせながら頷くと、同時に防御の手を緩めて探索スキルを駆使してザスタの暴走の源を探し始めた。
 棍棒を無くしてもなお、ザスタは腕を上下させようとしていたが、その隙を狙ってザスタの背後に回り込んだジルがザスタをガッチリとホールドした。

「・・・見付けた!!」
「熊の内側にアート反応!!」
 スキルレベルが最低値まで落とされていたものの、清正と遊菜が2人掛かりで探索した結果、機械操作とは違う操作方法、すなわちアート反応を感知。
「内側・・・・・・って、中!?そんな所に何が有るってんだ?っていうか、アート反応って一体どういう・・・・・・」
 開発者の神坂すら初耳だったらしく、頭の中でザスタの設計図を再確認してみたものの、この原因らしい設計ポイントは見当たらない。
『お嬢。どーするつもりだ?ホールドを離したら、お嬢ごと吹っ飛ばされちまうぜ?』
 ジルの横でフヨフヨと浮かびながら、ジョーカーが声を掛けた。
「中から引き摺り出して・・・・・・あぁもう面倒くさい!!」

 ジルはホールドしている手に更に力を込め、両足をグッと踏み込み足腰にグッと力を込めた。
 そして、気合一発

「やああああああああ!!!!」

 ジルはザスタをホールドしたまま、驚異的な腰の力で勢い良くブリッジをすると、派手な音と共にザスタの巨体が脳天から地面へ叩き付けられた。

「ば・・・・・・バックドロップ・・・」

 ジルの放ったアクロバティックな一撃に神坂は目を点にしていたが、当人は何事も無かったかの様に立ち上がり、服に付いた埃を払っている。

「さーて、何だか分からないけど、トラブルの元を確保っと~♪」

 ビシッ!と、清正と遊菜に向けてガッツポーズを決め、2人は親指を立てて返事を交わした。




 かるびっくす組。
 藤山麻菜。冴城聖。石神井漢人。樹嶋朔刃。
 盗賊団ボス【カドル】の居るエリアで、突然暴走したカドルと対峙している最中だった。
 カドルは虎をモチーフとしたデザインで、作り物と言えども獰猛な虎そのものなので、その迫力だけで怖気付いてしまいそうになる。

「ひ、聖ちゃん・・・・・・大丈夫、かなぁ?」
 麻菜が気弱になりながら声を掛けた。
「平気だよ。だって、このメンツだったら何とかなりそうじゃん?」
「うふふ~。ポジティブシンキングは大事よねぇ。麻菜サン、大船に乗ったつもりで構えましょ?」
 漢人がニコニコしながら麻菜に言うや否や、
「そういう事だから・・・・・・樹嶋兄妹サン、肉弾戦ふぁいとぉ~」
と、朔刃と桂丞の背中を比喩でも何でもなく押し出した。
「わ、ちょっと!?」
『俺達か!?』
 朔刃とアートの桂丞が、書いて字の如く「先頭で飛び出した」が、出ようと思って出たワケでは無かった様だ。

 カドルが一つ咆哮を上げると、二・三度ほど地面を蹴って2人に向かって突進して来た。
 2人はアイコンタクトを交わすと、左右に並びながら間隔を開けて戦闘態勢を取る。
 左右対称で同時に刀を振り被る姿には、1ミリの乱れすら無かった。
 間合いを測りながら、カドルが飛び込んで来た瞬間を狙い、

「やっ!!」『はっ!!』

 2人同時に刀を振り払い、カドルを数メートル弾き飛ばしたのだが、攻撃と云うよりカドルの攻撃を回避する為の「防御」と言った方が正しいかも知れない。
 現に、そのカドルは勢い良く突進していたために、2人も軽く跳ね返りを受けている。

『・・・ダメージ相殺。アートレベル値が下げられてる影響か』
 舌打ちをしながらカドルの様子を観察し、次の策を練る。

「朔刃姉。このトラって作り物でしょ?だったら、動力源を切っちゃえばイイんじゃないかな?例えば、コンセントとか・・・・・・」
 聖がクルスを構えながら朔刃に尋ねる。
「動力源、ね。コンセントとかだったら楽かも知れないけど、システムの問題よねェ?麻菜、まだ外と連絡は取れないの?」
「ぜ~んぜん、繋がらないです。圏外でしょうか・・・・・・」
「ほらほら、こうしている間にも、トラさんが準備を整えてるわよ~?」
 朔刃と桂丞に吹き飛ばされたカドルは、再び立ち上がりながら臨戦態勢を整える。
「もーー。麻菜に漢人!こうなったら、わたし達で探すしかないよ!」
「探す・・・・・・?聖ちゃん、何をですか?」
「動力源!こうなった原因だよ!アートレベル値が下がってるけど、皆で一緒に探したら、そこそこの威力は出ると思うもん。クルス、【水明陣】だよ!」
 聖は半ばヤケになりながら、クルスを掲げて探索能力を展開すると、周囲から水飛沫が放たれた。
「分かりました。かるび、探索準備は良いですか?【風連】を!」
『わかったー。せぇの、風よー吹け~★』
 次いで、麻菜がかるびに風属性の探索能力を指示すると、かるびの呪文(?)と共に穏やかな風が立ち上がる。
 風に溶け合わされた水飛沫が霧となり、それは周囲に満遍なく満ち溢れた。
 クルスとかるびの精神を通しながら、周囲を隈なく探り始めると、『それ』は直ぐに見付かった。

「トラの首輪のブローチだよ!」
 聖が指し示したのは、カドルの首輪から垂れているブローチ。

「あらあら、随分と難しい所に有るのねぇ~」
 のほほんと漢人が首を傾げながらブローチを確認すると、続いて麻菜がトラでは無くオブジェとして鎮座している二枚岩を指し示す。
「あと、あの大きな岩の中に誰か居ます!」
「「『『岩!?』』」」
 朔刃と聖、そして桂丞とクルスが同時に声を上げた。
 素っ頓狂なリアクションに麻菜は戸惑ってしまうものの、ひとり岩を眺めていた漢人だけは
「うふふ。岩の中から驚いた反応がするって、コマちゃんも言ってるわよぉ?どうやら、麻菜サンの言う事は正しいみたいねぇ」
と、いつの間にかアートの駒で岩を追加探索しており、決定打を見付けた。
「双子サンとワタシは、トラさん係。聖サンと麻菜サンは、岩の中の人を確保して頂戴?」
 仕掛けの謎を全て解いた漢人は、小声で3人に指示を出す。


 その後はスムーズに事が進んだ。
 正体を見破られてしまったカドルの動きが明らかに鈍り、朔刃と桂丞が2人掛かりでカドルを押さえ付けている間に、漢人がアートの駒を駆使して首輪に繋がれていたブローチを奪取。
 そのブローチは岩の中に潜んでいた岩人(仮名)こと、ピエトロのアートと思われる。

 ソロソロと岩に近寄った麻菜と聖は、岩の性質を分析しながら岩を剥がす準備を整えた。

「聖ちゃん、そーっと行くよ?」
「オッケー。それじゃ、3・2・1・・・・・・」




 一方、ザスタを操作していた影の人こと、小波織絵。
(ウソ!?ざくろ、ざくろ!?あちゃ~・・・・・・反応ロストしちゃった)

 そして、カドルを操作していた岩人(仮名)こと、ピエトロ・コンフォルト。
(参ったな~・・・・・・。確か、こういう場合は・・・・・・)



 2人は支配人に指示された言葉を思い出した。

『もしも、生徒達に見破られた際には、こう言っておく様に・・・・・・』









「・・・お疲れ様でした!BW特別イベント、いかがでしたか?」
「このサプライズイベントを見事にクリア出来た皆さんこそ、真の勇者の称号獲得です!!」








 ライバル・オブ・ケイブの入口に≪現在メンテナンス中≫と書かれている看板が立っており、スタッフが訪れた生徒達に、メンテナンス中との説明を続けている。

 駆け足でライバル・オブ・ケイブにやって来たのは、引率教師の沖つぐみ。そして、監督生の沖いぶきこと、沖姉妹である。

 支配人でありながら、アート研究家でもある坪ノ内硝悟の探究心により、このライバル・オブ・ケイブで故意的にトラブルを起こし、それにどう対処するのか・・・・・・と云う調査実験を行うと聞いたのだ。
 生徒達の安全優先との事だったが、それでも考え直してもらおうと説得を試みたものの、聞く耳すら持ってくれなかった。
 なので、直接スタッフに掛け合ってみようと思い、ここまでやって来たのだったが

「支配人より連絡が入っているんです。終わるまで誰も通すなと。ですので、終わるまでお待ち頂けませんか?」
「待てませんわ!!何が行われているか御存知ですの!?」
「支配人より伺っているからこそ、ですよ。それに、安全性は確保していると支配人が・・・・・・」

 喚き散らすいぶきと、いぶきに応対するスタッフ。


「あー、楽しかった!」
「やっと外に出れましたね」

「あ、あなた達・・・・・・」

 つぐみといぶきが目を見開きながら、声の方向を見ると【ライバル・オブ・ケイブ】に挑戦していた生徒一同が出て来た。

「あ。つぐちゃん先生!やっほー!」
「姉妹揃って遊びに来たのかしら?」

「遊びって・・・・・・アナタ達、大丈夫でしたの!?」

 つぐみといぶき。裏事情を知っていただけに、切迫した様子で詰め寄ったのだが、出て来た全員の顔を見るとケロリとした清清しい表情だった。


 話を要約して説明した。
 先行組・後攻組、共にボスエリアに入った所で、パンフレットやアトラクション紹介、更には同乗していたプロデューサー・神坂の設計にも無いアクシデントが発生。
 システムセンターに連絡を取ろうとしたが、端末が使用不能となったので大人しくスタッフを待とうとしていたものの、エリアボスが暴走を始めたので、正当防衛と判断して応戦した。
 しかし、箱を空けたらスタッフによる『サプライズイベント』と云う事が判明。
 ようやく2組が合流出来た所で、こうして戻って来れたと云う事。

「それにしても、とんだサプライズイベントだったわね」

 ジルの一言で我に返ったつぐみ&いぶき。
 つぐみは少々口篭ったが、意を決した様に拳をギュッと握った。

「みんな聞いて。今のは・・・・・・」
「いぶき様。ワタシ達から説明致します」

 いぶきの肩にポンと手が置かれ、振り向くとテレサと硝悟が立っていた。

「テレサさん、硝悟様・・・・・・」

「君達、突然の事で驚いただろう?サプライズだったから、事前に内容を教える事が出来なかったんだ」
 軽く頭を下げながら、やんわりとした口調で全員に事の次第を説明した。
「神坂君。まさか君も同席していたとは思っていなかった。君を・・・設計者を驚かせてしまって申し訳無かったよ」
 その話をいた神坂は、始めは納得出来ないと言いたい様子だったものの、寛大な性格だったのが幸いして、今後は自分の意見も汲ませてもらうとの条件付きで和解した。

 サプライズイベントの御礼として、BW内のショップで使える割引チケットが配られた。
 アトラクションのセットを多少傷付けたと云う後ろめたい所もあった。
 しかし、それらを大目に見てもらったので、双方和解と云う結果となった。

 







 BWシステムセンター アトラクション管理部

「余計な検索はなさらぬ様に・・・・・・と、言いましたよね?軽率な行動は控えて下さい」
「テレサさん・・・だけど、私達は生徒の安全が・・・・・・」
「誰の許しを得て、我々と同じ敷居に立てると思っているんだね。」
「・・・・・・申し訳御座いません。以後、気を付けますわ」


「インストール終了確認、私の権限により≪測量≫の解析開始を許可する」













■登場人物紹介■
坪ノ内硝悟(男性/35歳/BW支配人/白瞬猩/アート:ミスティ/人型)
テレサ・ロックウェル(女性/29歳/秘書/青流竜/アート:エトワール/物型)
沖つぐみ(女性/29歳/風学教師・引率/紅艶桜/アート:クローバー/物型)
沖いぶき(女性/20歳/風学生徒・監督生/黄彩蘭/アート:リリア/獣型)
神坂潤(男性/30歳/デザイナー/アート:華翔/物型)

樹嶋朔刃(女性/17歳/高等部2年/アート:桂丞/人型)

石神井漢人(女性/18歳/高等部3年/黒烈隼/アート:駒/人型)
冴城聖(女性/15歳/高等部2年/黒明桜/アート:クルス/物型)
藤山遊菜(女性/11歳/大学院修士課程/黒麗桜/アート:ピヨ助/獣型)

藤山麻菜(女性/15歳/高等部1年/白彩蛍/アート:かるび/物型)
ジル・ミスティレッド(女性/20歳/大学部2年/白艶蝶/アート:ジョーカー/物型)

透波清正(女性/13歳/高等部3年/黄仁蜃/アート:赤月/物型)

小波織絵(女性/BWスタッフ/アート:ざくろ/獣型)
ピエトロ・コンフォルト(男性/BWスタッフ/アート:ノーマッド)

  • 最終更新:2011-12-04 01:30:42

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