第8話:フィッティング&キャスティング

「ん?ヘルじゃないか」
 滝里心露の呼び掛けに、入口で立っていたヘルウェンディ・ウィンスレットが気付いた。
「アラ?皆お揃いなのね」
 心露の他に、四御神礦、夢幻香澄も一緒だった。

「・・・あら?さっきジェットコースターの所で、朔刃達と一緒じゃなかった?」
 しばらく前、ジェットコースター【ブレイブ・コースター】プチイベントで、偶然にもヘルを含めた御一行に会ったばかりだったので、今も一緒に過ごしているのかなと思っていたが、何故かヘルだけ行動していたのを不思議に思った。

「あー。実はね、あの後すぐにマネージャーから、とある映画監督がアタシと話をしてみたいって事になって。一旦ココを抜けて出演交渉の話をして来たのよ」

 ヘルはハリウッド女優としても活躍している芸能人でもある。なので、今回の様に仕事関係で授業を欠席する事も珍しくは無い。

「スゴイですね、国内?それとも海外で?」
 香澄が新作映画について尋ねて来たが、ヘルは人差し指で自分の口を押さえる。
「トップシークレット。いくら友達でも、まだ教えちゃいけないわ。来月辺りには正式に発表されるハズよ。だからそれまで我慢よ?」
と、悪戯っぽく微笑んだ。
「・・・・・・その割には、随分と早く帰って来たのね?」
 礦が尋ねると、ヘルは自分のアートの三刃鎌スネールを呼び出した。
「スネールに乗ってヒューンと飛んで来たの。片道約15分ぐらいだったかしら?おかげで話もちゃんと出来たし、ココにも戻って来れたわ」
『まったく・・・・・・人使いが荒過ぎるぜ。20分以内に到着出来なかったら、フリルでデコレーションするとか言われたら、嫌でも必死になるぜ』
と、スネールがブツブツと愚痴を零していた。
「まぁまぁ・・・・・・間に合って良かったじゃないですか」
と、香澄がスネールをやんわりと宥めていた。

「で、ヘルはこれから他の奴等と合流するのか」
 心露が尋ねると、ヘルは首を傾げながら口を開いた。
「とりあえず、ココで待ち合わせ・・・・・・【ライバル・オブ・ケイブ】って所が終わってから合流する予定だけど、随分と時間が掛かっているみたいね」

 その当事者達はシステムトラブルに巻き込まれている最中だったが、その話は後から聞かされる事となる。



「あたし達、今からココに入るんだけど、あんたのメンツが揃うまで一緒にどうだ?」
「うーん・・・・・・そうね。合流してから、また入るのも面白そうね」
「じゃあ、私ちょっと混み具合を見て来ます」
「悪いわね香澄。私・香澄・心露。それからヘルの4人でね。よろしく」



【ワールドコスチューム】
 世界の数カ国の民族衣装を身に纏い、記念に残る1枚を提供致します。
 民衆服から貴族服まで、用意している衣装も様々です。



 一同は絶叫系で遊んで来たばかりだったので、ワンクッションとしてこの写真館での記念撮影を選んだ。


 中に入ると、撮影スペースで民族服に身を包んだ先客グループが撮影していた。
 見覚えのある闘牛士を見付け、香澄は思わず声を掛けた。

「江國さんに十時さん・・・・・・ですか?」
「まいど。似合うとるかー?」
「優作さん、顔を引き締めておきましょうねぇ~」

 十時が着用していたのは、インドのシャルワニと呼ばれる衣装で、上流階級の為に作られたフロックコート風のロングコート。
 ちなみに、優作はスペインの闘牛士の衣装。色は全体的に黒だったが、服全体に煌びやかな金銀刺繍の装飾が施されている。

「珍しい所で会うモノですね。ところで、今こちらって混んでいますか?」
 優作と十時の格好を交互に眺め終えると、本来の目的を思い出した様に混み具合の状況を尋ねると、今度はアオザイ姿のグリュッグが現れた。
「今、自分達の他には・・・・・・2組だけでしたネ。ですから、そんなに混んでいませんヨ?」

 国こそ違うが、イギリス人のグリュッグがベトナム衣装を着用。スタイルが良いので違和感無くスマートに着こなしている。
 上着はオレンジでパンツは黒。袖はラッパ型に広がるフレアライン、左肩側に竜柄が施されており、キリッとした印象に見える。
 着る物ひとつで普段との印象がガラリと変わって見えるので、香澄は思わず溜息を付く。

「おーい、コレでどうだ・・・・・・」
「お待たせ。準備出来たよ」
「え・・・・・・えええっ!!?」

 ノソノソと出て来た2人の女性を見た香澄は、自分の性格に似合わな過ぎる程の、素っ頓狂な声を上げてしまった。
 1人はポーランドの女性用の民族衣装。様々な色が鮮やかに使われた縞のスカートと、惜し気も無く花の刺繍が施されたブラウスが目を惹く。
 1人はトルコ女性用民族衣装。真っ赤な布地に煌びやかな金の刺繍、布地と同じ赤いヴェールには煌びやかな銀細工が施されたゴージャスな造りである。

「フリルの方が砂さん、真っ赤なのが王瀬さん・・・・・・ですか?」

と、恐る恐る尋ねると、2人は苦笑を浮かべながら目を泳がせる。
「・・・・・・言っておくけどな!オレはこういう事が好きでも無いし、好きでこんな格好してるんじゃねえよ!!」
 自分より年下である砂が、礼儀も何も関係無く喚き散らしている事に気付かないほどの砂の剣幕に気圧されそうになりながらも、香澄は目を点にしたままコクコクと頷いた。
「嗜好は人によって違いますからね・・・・・・ところで、どうして一体この様な事になっているのですか?」
 何のフォローにもならなさそうなフォローをしながらも、事の次第を尋ねてみた。
「いやー・・・ちょっと前の話だけどさ」
と、原因となった話を切り出したのは、テンガロンハットが似合うカウボーイ姿の蒔和だった。
 御丁寧に、腰のホルスターにはレプリカらしきショットガンが装着されていた。



 一同はカーレース勝負を行っていたのだが、下位1・2位の2人は罰ゲームとして、此処で女装の記念撮影をする事になった。
 結果、罰ゲーム担当は砂と王瀬。
 砂は先頭グループで疾走していたものの、後半からジワジワと後続グループに追い込まれてしまい、ラストスパートの詰めが甘かった様だ。
 最初から後続グループだった王瀬は、中盤では一気に上位にまで食い込んだものの、最初から最後まで操作に不慣れていたのが決定打。
 
 そして、今現在に至っている。



「勝負ですか。それにしても珍しい結果ですね?勝負師と名高い王瀬さんが敗けるなんて」
 首を傾げながら、現在お姫様の様な可愛らしい恰好の王瀬に尋ねる。
「中盤の追い込みで3位にまで上がったけど・・・・・・最後の詰めが足りなかったからね」
『うぅ、申し訳ありませんマスター!私が不甲斐無いばかりに、この様なゴージャスな恰好をさせてしまいました』
「勝者は常に孤高なものだよ。価値の有る敗けだって大事だからね」
 アートのトイ・ダイスが恐らく心の底から謝罪している様だったが、王瀬はあっけらかんとしながらトイ・ダイスを諭す。
「ところで・・・・・・香澄、この事は絶ッッッ対に!オレの彼女や礦姉に言うんじゃねー・・・・・・じゃなくて、何卒言わないで下さい」
フリル満載の可愛らしい砂が香澄に詰め寄る。
あまり切迫感が感じられない。と、ツッコミを入れてしまいそうになった香澄だったが、丁寧な口調に加えて綺麗に頭を下げる姿を見ると、気の毒にさえ思ってしまいそうになる。
「は、はぁ・・・・・・砂さんがそう仰るのであれば、そうしたいのですが・・・・・・」
「マジで、本気でヤメて!!マジメで素敵な香澄大先輩様なら、約束してくれるよな!!?」

「そうも行かないのよね、砂・・・・・・ちゃん?」

 砂にとっては見覚えと聞き覚えの有り過ぎる女性・・・・・・姉である礦が微笑みながら、弟の晴れ姿を(?)デジカメでパシャッと1枚撮影した。
「礦姉ぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!」
「砂、王瀬を見習いなさい?郷に入っては郷に従え。って言うでしょう?ほら、似合っているし嫌がっていないじゃない?」
『そうだぞ!姉君の言う通りだ!一思いに着こなせ!!』

 四御神姉弟の対決がいきなり開戦したが、砂のアートの采が礦贔屓なので、決着は早い段階で着きそうである。
 後に、「金髪美人姉妹」と銘打った写真が飾られる事になったのは別の話。



「へぇー。カート対決ねぇ?・・・随分と男らしい勝負だけど、罰ゲームは女らしいな」
「勝負の世界は厳しいんやで。ワシらも心を鬼にして、罰を決めたんや」
「その割には、お前ら全員ウケ過ぎだろ」
 おふざけ罰ゲームを執行している側にならなくて良かったと思いながらも、あまりにも似合っている姿に笑いが込み上げている。




「じゃ、わたし達は服を選びに行きましょ?何着でも着れるみたいだから、色々試してみなきゃね?」
 ヘルが先頭に立ち、国別に分けられている衣装を手に取って眺め始めると、心露と香澄もヘルに続いて服を選び始めた。



「では、私は沖縄の琉球舞踊衣装を・・・・・・」
 和美人である香澄は、和装の琉球衣装を選ぶと姿見を見ながら合わせてみた所、横でヘルがダメだと云うオーバーアクションを見せている。
「もう、一も二も無く和装?香澄、たまには変身してみなさいよ。例えば・・・・・・ほら、コレなんか大胆なイメージチェンジじゃない?」
「これは・・・・・・かなり派手ですね。私には場違いでは・・・・・・?」
「何言ってんのよ!そんな派手な恰好してるくせに、今更そんな野暮ったい事は言わせないわよ!!」
 確かに、香澄の改造制服は金装飾が施されている真紅の軍服といった華美過ぎるものである。
しかし、同等の衣装も色々と用意されているので、華美さは問題無さそうだ。
 嫌がる香澄を窘めながら、ヘルは自分が着る予定のチャイナドレスを片手に、揃って試着室に入って行った。



 一方、クローゼットコーナーで、とある衣装と対峙している心露。
 南ドイツからチロル地方にかけて着られている民族衣装・ディアンドルは、「ブラウス・ジャンパースカート・エプロンの3種類で1つの服」と云う知識は入っている。
姿見で服を合わせてみると、普段と違う自分の姿に小さな感動を覚えたが、自分には合わないだろうなと思いながらクローゼットに服を戻した。
「可愛いじゃない。せっかく選んだのに戻しちゃうなんて・・・・・・着ないの?」
 背後から誰かの声が聞こえ、思わずギクリと立ち尽くしながら声の主を探ると、そこに立っていたのは礦だった。
 弟の女装・・・おめかし写真を撮り終えて満足したらしく、満面の笑みを浮かべていた。
「いやー・・・興味はあるけどな。やっぱり、あたしにはラフな格好が」
 心露のセリフを遮る様に、心露が戻した衣装を取り出して、心露の身体に衣装を当てて見る。
「・・・似合うわよ。可愛い心露も素敵じゃない。あら、コレも可愛いわ。私はコレにするから、一緒に撮りましょう?」
礦は隣に飾られていた色違いのディアンドル衣装を手に取った。
「・・・・・・仕方無いな」
 実は、内心では自分も着てみたいと云う気持ちの方が大きかったので、礦の後押しは渡りに船だった。
 2人は色違いのディアンドル衣装を抱えながら、試着室に向かって行った。



 屋内にも撮影スタジオが用意されているのだが、野外撮影用の特設セットも用意されていた。
 むしろそれが真骨頂、今日の様な天気の良い日は屋外撮影が人気である。
 ちなみに、香澄が会った男子グループは、女装している当人達が屋外だと通行人に見られると言う理由で頑なに拒否してしまったので、彼らは屋内撮影だった。
 しかし、屋内だと利用客の出入りが多いので、屋外以上に人に見られてしまう事に気付いたのは、彼らが撮影を終えて外に出た時だった。
 後に、砂が愕然としながら項垂れる姿を目撃する事になったとかどうとか。




 着替えを終えた心露と礦が屋外の撮影ブースに到着すると、西洋スタイルの庭園の中で、紫色のチャイナドレス姿のヘル、バリ島の舞踏衣装の一種・チャンドラワシーに身を包んだ香澄が既に撮影をしていた。
香澄が着ているチャンドラワシーは、紫生地に贅沢な量の金刺繍が施されており、腰部は黄色の布が巻かれているうえ、金色の冠を被っているので一国の姫と呼ぶに相応しい姿である。
 たった2色で作られているのだが、一目見ただけでも豪華絢爛と云う言葉が似合う。
 ヘルが着ているは紫色で金色の龍の刺繍が施されているのロングサイズのチャイナドレスは、大胆にも太腿までスリットが広がっており、小道具の扇子を使って「見えそうで見えない」サービスを振り舞っている。
 スタイル抜群なので、出るトコロは出て、引っ込む所は引っ込んでいる恵まれたスタイルが、チャイナドレスの魅力を必要以上に引き出していた。



「あら、心露に礦も着替え終わったのね。お先に撮影してたわよ」
「香澄。随分ブツブツ言ってた割には、着飾ってるし。楽しんでるみたいだな」
「えぇ、かなり華美ですよね。心露さんと礦さんは、随分と動きやすそうな可愛い恰好ですね」
「有難う。心露ったら、首元がスッキリしている方がイイとか言ったり、胸元が広がるのは嫌だとか。だからと言って閉めきられるのも具合が悪いとか・・・香澄よりも注文が多かったのよ?」
 礦が香澄に耳打ちをしながら話していたのだが、耳打ちとは名ばかりで会話が筒抜けだった。
「・・・・・・さっさと撮ってしまうからな」
 会話を聞いていた心露は、半ばヤケになりながら小道具の花籠を抱えると、庭園の花壇の前に立つ。
 心露のディアンドルは、ワインレッドのジャンパースカートと黒いエプロン。
礦のディアンドルは、モスグリーンのジャンパースカートと枯葉色のエプロン。
 2人の横には、チャイナドレス姿のヘルとチャンドラワシー姿の香澄が並び、それぞれ片手に花を一輪持ちながらポーズを取った。






「おやおや、素敵な淑女の会合を見逃してしまったら、一生後悔する所でした」
と、素で誘い文句を謳ったのは、園内を周っていた支配人・坪ノ内硝悟と秘書のテレサ・ロックウェルの2人だった。

「BWを楽しんでいますか?」
 硝悟がニコニコとした笑みを絶やさずに4人に尋ねると、揃って頷きながら返事をした。
「素晴らしいですね。こんなに素敵な衣装をたくさん着れるなんて、一流モデルさん気分ですよ。まるで違う自分に変身したかの様で・・・・・・」
「固いわよ、香澄。けど。違う自分に変身した気分になるのは間違いないわよね」
 ヘルが笑いながら香澄のコメントにツッコミを入れる。
「だな。騎乗系のアトラクションとは一変してるけど、こういうのって珍しいし面白いな」
 心露が言うと、礦がクスクスと笑いながら
「あれだけ嫌がっていたのに、誰よりもノリノリじゃない?」
 それを聞いた心露は、礦の腕を肘で軽く突いた。
「・・・楽しんで頂けている様ですね。ありがとうございます」
 硝悟は4人の楽しそうな様子を見ると、思わず御礼を述べていた。


 隣に立っていたテレサが、硝悟に何かを耳打ちをした。
 すると、硝悟は少し何かを考えながらも、面白いなと言わんばかりの笑みを浮かべながら頷く。

「皆さん。突然ではありますが・・・明後日の新アトラクションに「出演者」として参加してみる気はありませんか?」

 4人は突然の申し出に、キョトンとした表情を見せたが、その表情の理由を理解した所で話を続けた。
「失礼しました。驚かれるのも無理が無いですね。皆さんが魅力的でしたので、きっとステージも映えると思うんです」
「支配人。お話が長くなりそうでしたら、向こうの席に移動しませんか?立ち話ですと、皆さんもお疲れになってしまいますよ?」
 テレサが横から話に入って来た所で、硝悟は我に返った。
「あぁ・・・失礼、つい夢中になってしましました。皆さん、お時間少々頂けますか?」
 4人は顔を見合わせながらアイコンタクトで相談するが、折角の申し出を無下に断る事も出来ないと思い、話を聞く事にした。








 撮影衣装のまま、近くのベンチに移動した6人。
 礦・ヘル・心露・香澄、4人に向かい合わせる形で、硝悟とテレサが座っている。
 そして、左右には先程一緒だった十時・グリュッグ・砂・王瀬・蒔和・優作の6人が3人ずつ座っていた。
 男子チームに話を聞くと、4人と同じ様な理由で勧誘されたらしい。
 着替えは済ませていない様で、未だ女装姿の砂と王瀬だけが異彩を放っていた。




「彼女は秘書のテレサ・ロックウェル。私が一番信頼するスタッフで、一流の秘書です」
「テレサです。よろしくお願いします」
 ますは4人にテレサを紹介して、互いに名前だけの自己紹介を終えてから、一呼吸置いて話を切り出した。

「3日目・・・・・・つまり明後日。全員参加の新アトラクション・・・アトラクと言うより、参加型ショーと言った方が分かりやすいですね」
テレサが全員に件のアトラクションの紹介ペーパーを差し出した。
「平たく言うと、ヒーローショーになります。主役が捕まった人質を助けに行き、悪のボスを倒して大団円と云う内容です。」
「正統派ね・・・・・・だけど、参加型って言うのはどういう事かしら?」
難しい内容かと思いきや、中身を聞くとシンプルなものだったが、参加型と云う所に疑問を挙げた。
「はい。こちらのショーは、開始前にアートを一旦こちらの方でお預かりさせて頂きます」
それを聞き、全員が「えっ」と言うリアクションを見せたが、全員の言いたい事を解っていた様で、話を止めずに進めた。
「話は前後しますが・・・このアトラクションでは坪ノ内支配人が開発した、物質にアート能力を伝道し、エネルギーとして利用する『トラスト・システム』を使用します。」

 このトラスト・システムは、アート界隈では非常に有名な話なので、システム詳細全般を知らずとも、少なくても名前だけは知られている。

「ショーの演出上、観客の皆さんは『人質』になります。その際、アートと隔離されたと云う設定になるのですが、御安心下さい。お預かりしたアートは仕切りを使ったスペースに移動して頂く事になりますので、皆さんの目の届く範囲でのお預かりとなります。勿論、ショーが終わり次第、速やかに各マスターの元にお戻り頂きます。」

 そこまで説明した所で、パンフレット写真のセンターに居る主役の「ホープ」と悪役の「ディスペア」を指した。
「なるほど・・・【Hope(希望)】と【Despair(絶望)】ですカ。役割と位置関係が解り易いですネ」
 グリュッグが頷きながら、正義と悪の関係を理解する。

「設定では、このディスペアは喜びや勇気などと言った正義の力を信用しておらず、アートとマスター同士の信頼の力を悪の力に使い、絶望だらけの世界にしようと目論むキャラです。そこで、観客の皆さんとアートを人質にしている所で、主役のホープが皆さんを助けるために戦地に乗り込んで来ます。最初は善戦していましたが、人質の皆さんとアートを盾にしてしまうのです」

 そこまで言った所で、砂と優作がノリノリで身を乗り出して来た。
「ホープって奴がボコボコにされてる所で「皆で応援するんだ!」的な感じで「勇気100倍スマイルチャージ!」・・・とか?」
「せやなぁ。「おのれホープ、こないな事でワシは負けへんでぇー!行くでぇ・・・最終奥義ィィィ!!」・・・・・・って、こんな感じのノリやろか?」

 砂と優作の即興劇に暫しの沈黙が流れたが、テレサは笑みを崩さないまま頷いた。
「・・・そうですね。観客の応援を正義の力に変える、正統派のヒーローショーです。」
 一通りの説明を終えた所で、質問は無いかと全員に問い掛けると、礦が手を挙げた。

「トラスト・システムについては少しばかり齧った程度なのだけど・・・・・・このショーとトラスト・システムの関連性について教えてもらえるかしら?」
 自身を検体としてアート研究をしている礦にはリスクの高い内容だったので、内容次第では断るつもりである。

「トラスト・システムについては私から説明しましょう。このトラストを簡単に言ってしまうと「増幅器」「充電器」「汎用機」などのジャンルと考えて頂けると解り易いかも知れません。トラストを利用しながら稼働しているアトラクションが幾つか存在しているのですが・・・・・・これは、人間や工学の力で不可能な構造をアートが発する能力をトラストに取り入れる事で、不可能と思われる動作などを可能にしているのです。例えば、【ヒートサーキット】では、アートとカートを同調させる事で、カートと云うジャンルから、レース中のクラッシュ回避やエンジン加速などのシステムが補強される事になります。」


 先程ヒートサーキットで遊んで来た男子一同は、カートレースに於けるトラストの内容を聞いたばかりだったので、更に一歩進んだ話を聞きながら頷く。

「そして、ショーとトラストの関連性についてですが、これは参加型と云う所がポイントですね」
と、パンフレットの『皆のチカラで悪いヤツラを倒すぞ!』の文字を指した。
「ホープの武器である剣は、正義の心をエネルギーとして必殺技を出すと云う設定です。なので、ホープのピンチに観客の皆さんが応援する事で、観客席やドーム内部に施されているトラスト物質で反応した照明が灯り、それが「皆のチカラ」と云う事になります。すると、ホープの必殺技が炸裂!・・・そして、大団円と云う内容ですね」

 トラスト・システムの内容との関連を聞き終えて、その内容を理解した所で参加するかどうかで悩み始めた。

「無理にとは言いません。観客として参加されたいのであれば、公開する明後日まで友人にも内容を漏らさないで頂けると、こちらとしては助かります」
と、硝悟は念押ししながら、再度このショーの演者としての出演について尋ね始めた。



 結局、人質役の演者として参加するのは、現役女優のヘル。そして、面白そうだと云う理由で、王瀬と香澄と礦が立候補した。
 他の5人は序盤のみ登場する「逃げ惑う通行人A~E」として参加する事になった。



 詳細は再度連絡するとの事で、極秘会議とは言い難い屋外会議は解散となった。





(しまった。あたしの場合はアートが特殊だから、ディルシャーンを身体から離すのはNGだって言うの忘れてたな・・・・・・まぁ、あたしは通行人Cだし、セリフは「キャー助けて!」だけ・・・・・・ま、いいか)

 己の身体を検体としてアート研究をしている礦と違い、心露の場合は「アートを身体から離すと身体の五感の一部が麻痺して使い物にならなくなる」と云う一時的な障害を持っている。
 なので、一時的と言ってもアートと離れ離れになるのは大変厳しい状況になってしまうだろう。

 心露のアートは、鎖の先端に羽飾りの付いた伸縮自在のピアス型なので、既製品の様なデザインである。
(・・・・・・ショップに売られてたアクセサリーに細工しておく程度でイイかな)
 と、真面目な心露らしからぬ案ではあるが、この場合は仕方無いしTPOに合わせたに過ぎないと思い込ませた。




「王瀬君。かなり思い切った役柄だね」
 人質役の王瀬に蒔和が声を掛けた。
「まぁね。今の姿が思い切り過ぎちゃったから、きっと今を超えるレベルのモノは出て来ないと思うよ」
 実は意外と似合っていた女装姿、本気で嫌がる砂とは真逆で、素直に楽しかったと豪語する辺りは大物の片鱗を持っているのかも知れないし、もしかしたら天然なのかも知れない。
「なるほど。ギャンブラー根性はスゴイですねぇ~、敵いませんよ」
と、よく分からないフォローで王瀬を激励する十時だった。




「普段は護る為に戦っていますが、今回は護られる側になるので、演技と言えども精一杯、怖がってみせます」
「だから、堅いって言ってるでしょ。雰囲気を掴めば、自然と救いを求める事が出来るわよ」
「ほほう・・・さすが現役女優のヘルさんですね。勉強になります」
 セリフこそ短いが、本格的な演技に挑戦するのが初めてだったので、香澄は現役女優のヘルに演技指導を依頼したところ、結論から言ってしまうと「真面目過ぎる」と即答されたので、とにかく演者に成り切る様にとのアドバイスを受けたのだった。









 この事を知らない他の友達は、観客席で一体どんな驚いた顔をするのかな。
 そんなサプライズ演出に自分が関われる事に、優越感を感じながらも、当日まで口を滑らせない事だけが重要な課題かも知れない。


 明後日のステージでは、何が起こるんだろう―――――








■登場人物紹介■
坪ノ内硝悟(男性/35歳/BW支配人/白瞬猩/アート:ミスティ/人型)
テレサ・ロックウェル(女性/29歳/秘書/青流竜/アート:エトワール/物型)


江國優作(男性/17歳/高等部2年/青朗狗/アート:リィンカネーション/人型)

四御神砂(男性/15歳/高等部2年/黒砕竜/アート:采/人型)
十時・ツェルバ(男性/20歳/大学部2年/黒礼蛇/アート:ベッキィー)

滝里心露(女性/19歳/大学部1年/白仁隼/アート・ディルシャーン/物型)

王瀬・ラピメント(男性/19歳/大学部1年/紅貴虹/アート:トイ・ダイス/物型)
ヘルウェンディ・ウィンスレット(女性/17歳/高等部2年/紅麗蛇/アート:三刃鎌スネール/物型)
夢幻香澄(女性/19歳/大学部1年/紅烈桜/アート:月影)

四御神礦(女性/20歳/大学院修士課程/黄艶鳳/アート:ミットシュルディガー/物型)
柴塚蒔和(男性/17歳/大学院修士課程/黄狂蛇/アート:イリデッセンス)

  • 最終更新:2012-02-19 23:35:40

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