第10話:BW研修

 2日目はBW一斉メンテナンス研修。

 参加生徒が男女・年齢・学部混合でグループを組み、それぞれの場所でBWの仕事などを体験する所謂『職場体験学習』である。
 見知らぬ生徒達と同じグループを組む事に関しては、アート実習で慣れているおかげで、抵抗感は無さそうだ。


 午前中は、第1班から第6班が屋外施設研修、第7班から第12班が屋内施設研修。
 昼休みを挟んでから、屋外グループと屋内グループが場所を移動して、それぞれの研修に取り組む。





 屋外グループ
 入場ゲートを潜ってすぐ目の前にある巨大なオブジェ前に、午前中の屋外グループである1~6班の生徒達が集合していた。
スタッフとは違うラフな恰好をしている男性が、軽くマイクテストをしていた。
 男性はスタッフにOKとの合図を送ると、スタッフが前に出て来て説明を始めた。
「皆さん、おはようございます!2日目はBW施設のメンテナンス体験学習です。私達スタッフが普段行っている作業を分かりやすく説明させていただきます。なお、特別講師・BW総合デザイナーの神坂潤様をお招きしております」

「えーと・・・・・・風見ヶ原学園の皆さん、おはようございます。初めまして、デザイナーの神坂です。皆も知っている通り、ここはアートとの共存を目的とした施設。オレ自身も実はアート使いなんだが・・・正直な所、オレが楽しむ為にデザインしたとも言えるかもな」
 大胆発言に、生徒達からワッと笑い声が上がった。
「屋内研修の時にでも坪ノ内さんからアート能力を元にする『トラスト・システム』の説明を受けるかも知れないけど・・・・・・人間の技術で不可能な構造をトラストが補助なり支援なりしてくれるんだが・・・・・・説明するよりも実際に体験してもらった方が早いな。じゃあ皆、頑張って下さい」
 挨拶なのか説明なのかが曖昧だったが、実践で習得してもらおうという事になった。



【フリー・フリー・フリーフォール】
 一見、どこにでもあるようなフリーフォール。
 騎乗して上に登り、一番の頂点から一気に落下!!・・・・・・するのでは無く、頂点に到着した時間から1分以内で落とされる。
 しかも、落下するタイミングと云うものは、スタッフの匙加減。
故に、落下の覚悟が定まらないと云う恐怖も重なってしまう。


「まずは、こちらのメンテナンスから行いたいと思います。各グループから2名ずつ代表を選出していると思いますので、その方に体験して頂きますね」
「お?緑香だ」
「あれ~光起君だ。やっほー」
『カーマイン、ご機嫌いかが?』
『んー、絶好調だよ』
 それぞれのグループ代表だった赤坂光起と茶々山緑香。友達同士という事も有り、グループ代表と云う緊張感が和らいだ。
 そして、それぞれのアート・緑香のくノ一桜花・光起のカーマインが挨拶を交わす。
「潤兄に言われて事前に内容チェックしたけど、大丈夫かな~?」
「ははは、さすが潤美だぜ。まぁ、一介の中学生に体験させる事が出来るんだ、そんなに危なくないんじゃねーの?」
「せやなぁ。けど、手抜きはアカンで!」
『そうですの!真面目に取り組みましょうですの!』
 2人の会話に入り込んで来たのは、同じく別グループ代表の関谷りん。そして、アートの花子。
「アタシらが搭乗者の安全性を承るっていう大事な仕事や。ほれ、飴ちゃんやるから真面目に仕事せぇよ」
 飴と鞭と云う言葉を体現するかの如く、光起と緑香にブドウ味の飴玉数個を渡すと、2人を連れて操作盤ルームに向かう。


 操作盤ルームに入れる人数が限られているので代表以外の生徒達は、操作盤ルームからカメラ中継して作業している様子を屋外に設置されているモニターで見学すると云う事になっていた。

「1班の代表、冴城聖です!」
「同じく、1班代表の江國優作や」
「2班の神門涼奈です」
「四御神砂」

 作業服を着せられた1・2班代表の4人。

「えーと、カメラの方は大丈夫ですね?では、これよりメンテナンスと試乗チェックを行いますね。モニターで御覧の皆様、始めますよー。紹介が遅れました、私はスタッフの山江悠(やまえ ゆう)と申します。よろしくお願いします」

 山江の挨拶に対し、モニター見学している生徒達が声を揃えて「お願いします」と発声していた。

「まずは、作業に必要なパートナー・・・・・・つまり、アートとの協力が不可欠となります。私のアートの【芙蓉】に手伝ってもらいましょう。芙蓉、ご挨拶!」
 山江が呼び掛けると、右耳にリボンを結んだウサギが現れた。
『お初に御目に掛かります、芙蓉と申します』

 生徒達の中から「可愛い」と言う声が上がっていた。

「それでは、早速こちらの代表の方々に挑戦して頂きたいと思います。皆さんのアートの準備は出来ましたか?」

「クルス、頑張るよ」『任せておけって』
「緊張するわ~、リィンは大丈夫か?」『はい、問題御座いません』
「ファル装着完了!」『無理しないで下さいね』
「采に全部任せてイイか?」『サボるんじゃない!』

 4人が自分達のアートに声を掛け、準備を整える。

「コチラが、アトラクション稼働の要にしてBWの代名詞『トラスト・システム』です!」

 制御盤の中に組み込まれている手の平サイズのボタンが、山江の言う『トラスト・システム』らしい。




 別のアトラクションでも、同じ様な説明が行われていた。


【タンポポ散歩】
 タンポポ綿毛デザインのワゴンに乗り、音楽に合わせて空中周回すると云う子供向けのアトラクション。
 ジェットコースター並のスリリングには遠く及ばないものの、『タンポポの綿毛に乗って空を散歩する』と言う子供ならではの夢が詰め込まれているので、親子客の人気が高いアトラクションだが、カップル乗車も多いらしい。

「まずは、男性のキミから体験してみましょう。さあ、アートと一緒にコチラに並んで下さい」
 スタッフ・戸崎臣(とざき おみ)に指名されたのは、アートのアシェを肩に担いでいるグリュッグ・アードリガーだった。
 グリュッグはアシェを優しく肩から降ろし、言われた通りに制御盤の前に立つと、制御盤に組み込まれている手の平サイズのボタンに視線を落としたのだが、アシェがグリュッグの制服の裾をクイと引っ張った。
『グー・・・・・・頑張ろう?』
「畏まりましタ。このシステム、本当に危険性は無いのですネ?」
 アシェを庇う様に、戸崎に危険性の疑いを訪ねた。
「大丈夫ですよ!先程実践した様に、僕のアートには被害も危害も出ませんでしたから!」
 戸崎のマナス型で女性タイプのアート【愛のルクリア(通称・ルクリア)】が、柔らかな微笑みをアシェに向ける。
『可愛いレディー、頑張りましょう』



【メルリィ★メリーゴーランド】
 遊園地の定番・カップルに特に人気の高いメリーゴーランド。
「えぇと・・・・・・これで準備完了、ですか?」
 スタッフに確認しながら、神門結は制御盤に設置されている『トラスト・システム』の稼働装置のボタンに手を乗せた。
 ここの担当のスタッフで、フランス男性のニコラ・リヴィエールは流暢な日本語で結に話し掛ける。
「そうです、そのままアートとシンクロさせたままお待ち下さい。僕の合図と同時に、先程お伝えした手順でトラスト・・・・・・触れているボタンに力を込めて下さい」
 ニコラのアートでありモノスの赤い小箱【ローズ】が、パネル盤を確認するニコラの周囲でフワフワと浮いている。
「補充準備完了。トラスト起動!お願いします!」
「ルナ!」『任せて!』
 合図と同時にアート能力を解放すると、モニターパネルが一気に点灯した。
結とルナの力がトラスト・システムに伝導したと同時に、トラスト機能をエネルギーとするアトラクションが稼働した。



【スィート・ティータイム】
 遊園地の定番・コーヒーカップ。
 中央に飾られているティーポッドのオブジェからは甘い香りが漂っている。
乗車を終えると、隣接しているドリンクワゴンからジュースを購入する客が居るとか居ないとか。
「ココでは、どういうメンテナンスを行うのかしらぁ~?」
 石神井漢人がスタッフ・野木圭織(のぎ かおり)の説明を受けていた。
「コチラに乗車されるお客様の中には、カップを回転させ過ぎて体調を崩される方がいらっしゃいます。ですので、主に乗車されているお客様の身体に負担を掛けない為のフォローの様な内容ですね」
「ふーん。つまり、遠心力から来る三半規管の具合を悪くさせない様にするって事かな?」
「その通りです。コチラで使用するトラストは、遠心力によって起こる三半規管と平衡感覚の緩和対策となります」
 漢人の質問に続いたのは、柴塚蒔和だった。

 あらかじめ、2人はスタッフの指導を受けながらトラスト起動させていた。
コーヒーカップには被験スタッフが乗車しており、カップを思うがままに回転させながら、所要時間の2分を乗り切った。
被験スタッフがすぐに血圧や心拍数の測定を受けた所、数値に多少の上昇はあるものの、開始前と開始後のデータから、先程の物凄い回転による三半規管の異常は見られなかった。
科学的に実証された所を見た生徒達から拍手が起こった。










「――――――私が開発した『トラスト・システム』とは」

屋内グループは坪ノ内硝悟による【トラスト・システム】の講義を受けていた。

世間的には、まだまだ未知の分野であるアート。
不思議な能力を社会貢献などに役立てる様にと、BW及び坪ノ内硝悟の代名詞でも有る【トラスト・システム】
坪ノ内硝悟が開発した【トラスト・システム】が今や世界ブランドとまで言われている。
 例えば、作業用汎用機械にトラストを取り混むと、アートの持つ優れた精度やエネルギーを蓄え、利用する事で作業御効率も大幅に改善され、コストダウンにも繋がる。
このシステムの最大の特徴は、使用したアートやマスターへの負担が殆ど無い所である。
体力的な負担と言えば、1回のシステム作動につき、約5分程度のウォーキング並の消耗となる事が実証されている。
BWでは、スタッフがローテーションでシステム操作に携わっているので、健康面への問題は無いらしい。


 トラストの一つに【オラクル】と呼ばれている機能が有り、これこそが世界唯一のアート専門校である風見ヶ原学園でも未踏の環境で、トラスト・システムを世界ブランドとまで言わせる事となった最大の理由。

『主人を持たないアートを従事させる事が可能』

 共通常識『アートは1人1体』と云う定説を覆した、世界にも類を見ない世紀の大発見。
 近年、主人を持たない野良アートが増加しており、制御する為の手段を持たないアートが好き勝手に闊歩しているせいか、マナーやモラル・更には野良アート問題として時折ワイドショーで取り上げられているせいで、全国的に問題視されている。
 このオラクルを利用する事で野良アート達を保護・受け入れをしていて、一時的にマスターとしての役割を担っている。
簡単に言うと、野良アートにマスターが見付かるまでの一時預かり施設の様なものである。
風学と違った手法でアートの育成に力を入れており、BWのスタッフとして実際に飛び回っているアートも存在している。
 故に【オラクル(神託)】と呼ばれている。




「それでは、これより質問を受け付けます。どんな事でも構いませんよ」

 すると、あちこちから挙手が上がったので、前列生徒からの質問に答える事となった。

「学年とお名前からお願いします」
「大学部2年、ジル・ミスティレッド。えぇと・・・・・・オラクルってのが野良アートの仮マスター役って言ってたけど、色々な野良アートを受け入れた所で、システムそのものにキャパシティー問題は無いのかしら?」
 スタッフから渡されたマイクを持ったまま、硝悟からの回答を待った。

「結論から先に申し上げますと、問題ありません。私が開発したトラストとは、先程お話しましたが監視・探査・支援・測量などの機能の集合体・・・つまり、パソコンの様な物と言えば分かりやすいかも知れませんね。その機能の一つが【オラクル】です。数多の情報量で許容量オーバーになる事も指摘されていますが、常に情報はトラストを介して行き渡っているため、オーバーする程のトラブルは起こっていません」

 そう話しながら、スタッフがトラストについてのスライドショーを再びスクリーンに出していた。

「常に拡大しているトラストではありますが、むしろ許容量をオーバーして頂きたいと言うのが私の本音です。アートに関しては、まだまだ未知数の分野ですので、風学の皆さん方と共同でアート研究を行う事が出来る機会に巡り合いたいですね」

 ジルは一礼をしてからマイクをスタッフに返した。
 その後も数人の生徒達からの質問に受け答えしていたが、決められている時間に限りがあるので、最後の質問を受けた。

「大学部1年、夢幻香澄です。トラストシステムで得たアートのエネルギーは、BW以外にも利用出来るのでしょうか?」
 香澄の的を射た質問に、スタッフが口籠りながらも硝悟の発言を待った。

「勿論、BWだけに限らず、工事現場や医療関連などでのシミュレーションを検討中です。現在はBWだけですが、将来は人の技術が届かない技術職や社会貢献など、ジャンルを問わず幅広く役立てる様に研究開発を進めております」





 こうして、屋外・屋内それぞれの場所で行われた研修は、大きな事故やトラブルなどが起きないまま、2日目の日程を無事に終える事が出来た。




to be Continued...





■登場人物紹介■
坪ノ内硝悟(男性/35歳/BW支配人/白瞬猩/アート:ミスティ/人型)
神坂潤(男性/30歳/デザイナー/アート:華翔/物型)

関谷りん(女性/16歳/高等部1年/紅剛竜/アート:花子/物型)


江國優作(男性/17歳/高等部2年/青朗狗/アート:リィンカネーション/人型)
茶々山緑香(男性/13歳/中等部2年/青鋭燕/アート:くの一桜香/人型)
グリュッグ・アードリガー(男性/21歳/大学部4年/青麗蜃/アート:アシェ)

四御神砂(男性/15歳/高等部2年/黒砕竜/アート:采/人型)
石神井漢人(女性/18歳/高等部3年/黒烈隼/アート:駒/人型)
冴城聖(女性/15歳/高等部2年/黒明桜/アート:クルス/物型)

ジル・ミスティレッド(女性/20歳/大学部2年/白艶蝶/アート:ジョーカー)
神門結(女性/17歳/高等部2年/白麗蛍/アート:自由天使シフォルナ/人型)

夢幻香澄(女性/19歳/大学部1年/紅烈桜/アート:月影)

神門涼奈(女性/20歳/大学部2年/黄清隼/アート:ファルニア/物型)
柴塚蒔和(男性/17歳/大学院修士課程/黄狂蛇/アート:イリデッセンス)

  • 最終更新:2012-04-23 23:01:38

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