第11話:自由行動(2日目)

 16:00 チェックイン(ホテル東館)
 16:30~17:30 レポート作成(会場:東館3F 小会議室1~4)
 17:30~18:30 食事(会場:東館4階)
 18:30~19:00 予定確認(夕食後に同会場にて)

 3日目は、新アトラクションの試乗会。
 室内ショーなので、今日の様に小分けでグループ分けでは無く、ある程度の人数を収容しながら順番に行う事になっているので、グループ分けの必要は無いらしい。
 確認項目はショーのタイムスケジュール確認だけなので、予定確認は前日に比べると早い時間で終わった様だ。

 19:00~21:00(22:00)自由研修
 21:00 初等部点呼・消灯
 22:00 中等部~大学院点呼・消灯






「ヘルの端末から着信音が鳴ってるわよ?」
 エルザ・フリューリンクは、ヘルウェンディ・ウィンスレットの持っていた端末から聴こえて来た電子音に気付いた。
「そう・・・・・・みたいね」

 BW運営・新アトラクション部門から翌日のイベントにサプライズ出演するメンバー宛に、詳細が記された添付ファイル付の極秘メールが届いたのだった。
 目の前に居るエルザはサプライズの事を知らないので、メールを確認しないヘルを見て不思議そうに尋ねた。
「・・・・・・見ないの?覗き見なんてしないわよ?」
「え。えぇ・・・・・・後から確認しておくわ」
「・・・・・・ふーん?」






 男子生徒宿泊フロア。
 柴塚蒔和が部屋で1人、端末を弄っていた。
 出演依頼の話を受けた際、添付ファイルの暗証番号を受け取っていたので、早速その暗証番号を入力した。
 通行人と云う役柄、出番が少ないながらもセリフは用意されている。
 ちなみに、蒔和のセリフは「危ないぞ!逃げろー!!」だった。

 ピンポーン

 チャイムが鳴ると、客人を招き入れるべく立ち上がった。

「やぁ、蒔和君。メール届いたかい?」
 サプライズ出演メンバーの1人、王瀬・ラピメント。
 蒔和は出演者である王瀬に声を掛け、一緒に台本を読んでみようと云う約束をしていた。
「他の皆・・・・・・優作君は彼女の笹女君とデート、グリュッグ君は清正君と、砂君も彼女とデート。ははは、僕らだけが余っちゃったよ」
「羨ましい話だね。じゃあ僕らは予習デートと洒落込んでみようか。・・・・・・長セリフでも無いから、難しくないね」

 蒔和は王瀬を部屋に招き入れると椅子を2基用意し、互いに向き合う姿勢で台本の朗読を始めた。






 フードコートのアイスクリーム屋でアイス待ちをしていたのは、茶々山緑香と桜彩奈。
「オレンジとチョコバニラ、お待たせしました!」
「ありがと~。はい、彩奈ちゃんのオレンジだよ~」
「わぁい、いただきまーす!」
ぱくっ。と、オレンジアイスに齧り付くと、冷たくて甘酸っぱいオレンジ味が口の中に広がった。
「つめた!でも、美味しい」
「ボクのも美味しいけど、彩奈ちゃんのオレンジも美味しそう~」
 緑香も一齧りした後だったので、口元にチョコが付いている。
「じゃ、オレンジ食べてイイよ!だけど、高いよ~・・・・・・なんちゃって」
 彩奈の言葉が終わらない内に、緑香がオレンジアイスに一口齧り付いていた。
「甘い、酸っぱい。美味し~」
 そう言いながら、彩奈の口に自分の持っていたチョコバニラを押し付けた。
「・・・・・・・・・・・・うん、美味しい」
 彩奈は口の中が冷たく、顔だけが熱過ぎる状態だった。
 中学生らしく、アイスクリーム屋で健全なデートを満喫していた。



「・・・・・・なかなか、くすぐったくなりそうなぐらい可愛いデートだぜ。ピュアだなー」
と、密かに緑香と彩奈の遣り取りを見ていたのは四御神砂。
 彼女とデート中だったのだが、アイスを食べようと云う事になり、砂が2人分買いに来ていた所、緑香と彩奈のラブラブっぷりに当てられていた。
『マスタ~?まさか「オレもやってみようかなー」とか思って・・・・・・』
 アートの采が砂の顔をニヤニヤしながら覗き見している。
 ちょっとだけ思った。・・・・・・と云う事は堅く閉ざす事にした。






 一方、ゲームセンターで遊んでいたのは、江國優作と樹嶋笹女。
 4択クイズゲームなので、操作するのが優作だけではあるが、笹女も一緒にクイズの解答者として参加していた。
 ジャジャン!と云う定番SE音と共に、司会者キャラが画面にクイズ問題を提示した。

【楽器・ベースの弦の本数は?A:3本 B:4本 C:5本 D:6本】

「コレは簡単や。正解は~・・・・・・Bいったれー!」
 考える時間は殆ど無いままBボタンを押した所、2秒ほどの間が空き

『正解!おめでとうございます、ジャンル:音楽、ノルマクリア!』
と、ファンファーレと共に勝利が告げられた。

「やった~ですよぉ~!優作さん、優作さん!ハイスコアランキングですぅ~」
 笹女が画面を指すと、ハイスコア7位のプレイヤー名を入力する欄の文字が点滅している。
「おっ、ホンマやな。それじゃ「エクニ」やな。E・K・U・・・・・・って、一文字分が入らへんやん!!」
「あらあら~。でも『EKU』で承認されちゃったねぇ~」
「しまったぁぁ!ワシであってワシやない!!なんでやー!!」
 まるでコントの様な会話に、背後で見ていたギャラリーから笑い声が上がっている。

「ん~。気分転換、リラックスですぅ。あのね~、ココに来る途中に有ったジュースバーに行きましょ~」
「せやなぁ。折角ランクインした記念に乾杯や」
「乾杯や~」
 手を繋ぎながら、仲睦まじくゲームセンターを去った2人。
 しかし、一部のギャラリーにより2人の背中は突き刺さる羨望と嫉妬の的となっていたが、2人はそれに気付いていない様だ。






「今日も御疲れ様でしタ」
「お疲れ」
 カフェ【リトル・アレグリア】で寛いでいたのは、グリュック・アードリガーと透波清正。
「メンテナンス方法、なかなか難しいシステムではあったけど、慣れてしまえば問題無さそうだったな」
 今日1日の感想を口にしながら、清正が行った機関車のメンテナンスを思い出した。
 安全性が問われると云う事が重要だと聞いていたので、細心の注意を払いながら作業を行っていた。
「そうですネ。人の命に係わる作業でしたかラ・・・・・・気が抜けない大変な仕事ですヨ」
 恋人同士の会話とは思えない真面目な会話だった。


「ん?グー、あの人・・・・・・」
 店に入って来た客を目敏く見た清正は、小声でグリュックに話し掛けた。
「・・・・・・支配人の坪ノ内硝悟、ですネ?それと、秘書の女性に・・・・・・もう一人居ますヨ?」
 坪ノ内硝悟とテレサ・ロックウェルとの面識は、前日にサプライズイベント出演する為の要請を本人達から直接受けたので、顔と名前は一致していた。
 清正も2人の面識は有る。遊んでいたアトラクションのシステムトラブルの際、当人達から直接の謝罪を受けた経緯があったので、グリュックと同様に顔と名前が一致していた。
 
 テレサに車椅子で押されながら入って来た、もう1人の男性には面識が無い。

 硝悟が店内に入ると、従業員が飛び出して来た。
 会話は聞こえなかったが、手厚い歓迎を受けている事は確かである。
 従業員に促された3人は、グリュックと清正の席から2席ほど離れた仕切りの有る席に着席し、車椅子の男性の為にスペースを用意してもらってから、ようやく何かを注文していた。

「支配人が自らチェックを行うって・・・・・・満更でも無かった様だな」
「噂だと思っていましたガ・・・・・・こういう気配りこそ重要でしょウ」
 更に声を潜めながら、硝悟に対する評価を口にしていた。
 程無くして、店員がコーヒーを3人分持って来た。

「さて、話を戻すが・・・・・・テレサ、君は弟と付き合いたいと云う事は、本当なのか?」

 硝悟達の会話が聞こえて来たが、確実に不可抗力なので偶然だと思いつつも、つい聞き耳を立ててしまう。
 聞き耳を立てて聞こえる声量では無いハズだったが、アート訓練の一環で様々な訓練をしている為か、聴力訓練で得た成果が出てしまっていた。

「坪ノ内硝悟に弟なんて居たのか。しかも恋人は自分の秘書・・・・・・ちょっとしたスクープだな」
「清正、もっと声のトーンを落として下さイ」

「はい、本当です。以前からお話しておりましたが、公登さんとは2年程前から親しくさせて頂いておりました。忙しい時期にお伝えするのも申し訳無いと思っていましたが・・・・・・」
「さすがに人様のプライベートに介入するつもりは無いし、公登だって立派な社会人。交際は続けても構わないが、一つだけ聞きたい事が有る。公登は身体障害を・・・・・・」
「・・・・・・勿論、それを知った上での事です。介助する為の交際では有りません」
「・・・・・・公登の前の交際相手は、事故後に公登に介助を必要とする事が分かった途端に、別れ話を持ち出してな。遠回しに、介助する事を拒否したものだと、私は考えている」
「支配人。ワタシを前の方と一緒にされては困ります。テレサと云う一人の女性として、公登さんと一緒に居たいと思っているのです」
「・・・・・・そうか。テレサ、君には秘書としての仕事の他、公登の介助も行ってもらっていたから、そういう意味での「付き合い」だと思っていたが、私の思い違いだった様だな・・・・・・公登、テレサを大事にするんだぞ」
「あぁ・・・・・・」



「スクープ!わたし達、とんでも無いタイミングに出くわしてしまったぞ!」
「BW支配人の弟が自身の秘書との交際を認めル・・・・・・業界人でも掴む事が難しい内容ですヨ」
「しかし、車椅子の彼は弟だったのか・・・・・・さっきも言ってたけど、初耳だよな」
「はイ。しかも、事故とか言ってましたヨ?車椅子と云う事ですかラ・・・・・・身体に何らかの障害を持っているんでしょうネ」


 とりあえず、2人の心の中に「坪ノ内公登」「兄の秘書が恋人」と云う盛大なスクープを仕舞っておいた。







 樹嶋朔刃が自室で1人、パンフレットを眺めていたところ、端末にメールが届き、件名を見て首を傾げた。

『樹嶋朔刃様 イベント部より出演依頼』

「桂丞。アタシ達、何か余計な事とか仕出かした?」
『・・・・・・さぁな。昨日のシステムのヤツなら該当されるかもな』

 要件を挙げると、こういった内容だった。
 まずは、前日のシステムトラブルの話から始まった。
【ライバル・オブ・ケイブ】は、システムの一環でアートレベルを最低値にまで下げられる事になっている。
 しかし、搭乗した際に予期せぬトラブルに於いてアートバトルを展開していたのだが、アートレベルが最低値だったにも関わらず、朔刃と桂丞の見事なコンビネーションが役に立ち、トラブルを回避したと云う所がBW関係者の目に留まったらしい。

「・・・・・・んで、BWのプロモーション撮影に協力してくれないか?・・・・・・って、内容」

 その話を聞いた桂丞は、朔刃とのコンビネーションを褒められた事を素直に喜んだのだが、言ってしまったら朔刃が調子に乗りかねないと判断し、軽く頷く程度の反応を見せた。

「メールの内容を見たんだけど、明日のショーは観れないわ・・・・・・けど、この撮影に行ってみようかしらねェ?」
 少し楽しみにしていたショーを観れないのは残念だが、それ以上に興味の有る事が向こうからやって来たのだから、乗らないハズが無い。

「撮影会場、ショーの場所と同じだけどフロアが違うわ。・・・・・・ふむふむ、他の生徒にはバレない様に用心して歩かなきゃいけないし・・・あ、参加するって連絡しておかなきゃ!」
と、いそいそと出演OKとの返答メールを打ち始めた。

(所詮、上っ面だけを見た奴等より、朔刃のイイ所を全部判ってるのは俺だけなんだけどな)
と、メールを打つ朔刃の後姿を見ながら、桂丞は心の中で朔刃へのシスコンっぷりを全開させていた。























 翌日開催されるショー会場「ドーム劇場」にはBWスタッフ全員が集合しており、ステージの中央で坪ノ内硝悟が集合させたスタッフに激を飛ばしている。

「明日のショーはBW・・・・・・いや、我がトラスト・システムの集大成。そして、新たな一歩となる日だ。全員、気を抜かずに最後までショーを完遂させる様に。必ず・・・・・・成功させる!私は君達を信じている!」

 普段は冷静で落ち着いた佇まいの硝悟が、これほどまで熱くなっている姿を見るのが初めてだった様で、スタッフ全員にも硝悟の熱意が伝わっていた。
 その期待に応えるかの様に、ドーム内にスタッフ全員の気合の入った返事が響き渡った。







 「何かが起きる」

 ・・・・・・と云う想いを胸に、BWとアート使いの夜は過ぎて行ったのだった。













■登場人物紹介■
江國優作(男性/17歳/高等部2年/青朗狗/アート:リィンカネーション/人型)
樹嶋朔刃(女性/17歳/高等部2年/青鋭蛇/アート:桂丞/人型)
茶々山緑香(男性/13歳/中等部2年/青鋭燕/アート:くの一桜香/人型)
桜彩奈(女性/12歳/中等部2年/青明鳳/アート:颯/人型)
グリュック・アードリガー(男性/21歳/大学部4年/青麗蜃/アート:アシェ/人型)

樹嶋笹女(女性/17歳/高等部2年/黒清蝶/アート:伊厘/人型)
四御神砂(男性/15歳/高等部2年/黒砕竜/アート:采/人型)

エルザ・フリューリンク(女性/17歳/高等部2年/白流鳳/アート:シュヴァルツ/人型)

王瀬・ラピメント(男性/19歳/大学部1年/紅貴虹/アート:トイ・ダイス/物型)
ヘルウェンディ・ウィンスレット(女性/17歳/高等部2年/紅麗蛇/アート:三刃鎌スネール/物型)

透波清正(女性/13歳/高等部3年/黄仁蜃/アート:赤月/物型)
柴塚蒔和(男性/17歳/大学院修士課程/黄狂蛇/アート:イリデッセンス/獣型)



坪ノ内硝悟(男性/35歳/BW支配人/白瞬猩/アート:ミスティ/人型)
テレサ・ロックウェル(女性/29歳/秘書/青流竜/アート:エトワール/物型)
坪ノ内公登(男性/24歳/一般人/BW音楽担当/療養中)

  • 最終更新:2012-06-16 23:16:29

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