第12話:楽屋裏の

 BW創立6周年記念に造られた新施設【ドーム劇場】
 その名の通りドーム型の建物で、室内専用ショーやイベントが行われる事となるのだが、今回は風学生へ特別プレオープンとなった。

 ドーム劇場のホールは広く、約250人もの人数が集まっていようとも広々としている。
 ホール内にもショップが用意されていて、雑貨屋やカフェなどが所狭しと用意されている。
軒を連ねる屋外ショップには劣るものの、ショーの待ち時間の暇潰しとしては上等のラインナップだ。

 ドーム劇場そのものがBW6周年を彩る大きなシークレット。
1グループが観終わってから、生徒達には出口専用から退出してもらい、そのまま別室でアトラクション感想アンケートを採る事になっていて、全グループが観終わるまでドーム劇場で待機してもらう・・・・・・という徹底っぷりだった。
 更に、外部への情報漏洩を防ぐ為に、この時間帯のみ端末システムは使用不能となっている。




 劇場ステージは1つしか用意されておらず、1ステージの収容人数は限られている。
スタッフが収容人数をランダムに取りまとめながら、幾つかのグループを作る作業をしていた。






「皆に気付かれずに・・・・・・来れたでしょうか?」
「大丈夫でしょ。あれだけ混雑していたから、誰が居ないかだなんて細かくチェックされてないわよ。きっと。」
 ショーにサプライズ出演するメンバーの夢幻香澄と四御神礦の2人は、入場直後に指定された控室へと足を運ばせていた。
「ホテルを出る時に心露さんとお会いしたのですが、適当に時間を潰してから行くと言われていました。他の方も大丈夫だと良いですね」
 そう言いながら用意された控室に入ると、既に男性陣が到着していた。
「おはようさん。おーい、砂の姉貴と香澄、来たで~」
と、挨拶で迎えたのは江國優作。
「おはようございます。お二人、誰にも見付かる事無く来れた様ですねぇ~」
「その様子だと、男子全員も大丈夫だったみたいね?」
 既に到着していた他の男子、十時・ツェルバ、グリュック・アードリガー、四御神砂、柴塚蒔和、王瀬・ラピメントの姿を一望すると、グリュックが2人の前に椅子を用意して座る様にエスコートしていた。
「おはよう」
「おはよー。全員揃ってる?」
 最後の出演者、滝里心露とヘルウェンディ・ウィンスレットがやって来た。
「そこでスタッフと会ったんだけど、打ち合わせしたいらしいぞ。今から始めても大丈夫か?」
 心露の質問に全員が頷いたので、心露は廊下で待っているスタッフにOKとの返答をすると、台本とインカムを装備したスタッフがやって来た。

「おはようございます。スタッフの久賀大輝(くが だいき)です。本日は宜しくお願いします!」
 スタッフ・久賀は全員の名前と役柄を確認すると、台本チェックを促した。
「えぇと、セリフや役柄の変更は有りませんので、台本通りに進めて下さい」
 通行人役の砂・十時・蒔和・グリュック・優作・心露に登場する場所とタイミングの再確認。
 人質役の香澄・礦・ヘル・王瀬。
 実際にステージで確認する為に、ホールで待ち続けている生徒達よりも一足早くステージ拝見と相成った。

 舞台セットは、近未来の都市をイメージした造りとなっているので、SF小説作家である心露には堪らないステージである。

 通し稽古を見ながら、自分の出番や動きなどのチェックを済ませる。

 10人の出演はサプライズゆえ、最初に観たグループの生徒達によるネタバレを防ぐ為に、出演は最後のグループの回での出演となった。


 悲劇の(?)人質・香澄・礦・ヘル・王瀬の4人は、通行人役の6人と分かれて準備に取り掛かる事となった。

 舞台裏に通された4人の専用セット(?)約2メートルほどの大きさで、人が1人余裕で入れそうなチューブ管。
「へぇ~・・・・・・いかにも「人質です!」・・・って感じね。」
 興味津々と云う様子で、ヘルがチューブの中に入って佇まいをチェックしていたのを見た香澄は、隣に立っているチューブ管の中を覗き込んでいる。
「観客の皆さんに向けてのセリフが終わってから、連れ去られると云う具合でステージから退席しますが・・・演出上、皆さんがこのチューブに入ったまま移動します。安全に務めますが、危険ですので中で激しく動いたりしないで下さいね。」






「うーん・・・・・・桂丞、指定された場所ってココで間違い無いわよねェ?」
『そうだな』
前日、スタッフからプロモーション撮影の依頼を受けた樹嶋朔刃。
 端末に届いたメールの通り、ホテル地下のエントランスホールのベンチに座っていた。
 このホテルの地下エリアは会議室などにも使われているので、利用は観光などの一般客だけでは無く、企業の研修会などにも利用されている。
「あれ?清正?おはよ、もしかしてプロモ?」
 朔刃の視界に入って来たのは、透波清正だった。
「おはよう。・・・・・・その言い方だと、わたしと同じ理由っぽいな」
『他にも参加者がいらっしゃったのですね』
 清正の傍に付かず離れず寄り添っていたのは、清正のアートで日本人形女性の赤月。
 昨晩届いたメールの話から始まったのだが、極秘と云う注意書きから察するに、他の参加者についても当日まではシークレット扱いだった様だ。
「9時にスタッフが来るって言ってたけど・・・・・・あの人かな?」
 端末の時計を見ると、約束の時間の9時を指しており、それに合わせたかの様に女性スタッフが2人の姿を確認すると挨拶をしながら名刺を差し出した。
 簡単に互いの自己紹介を終え、詳しい説明は担当者が行うとの事で、控室へと案内された。

「失礼します。樹嶋朔刃様と透波清正様、ご到着されました」
 スタッフに促され中に入ると、応接室の中心に居たのは坪ノ内硝悟と秘書のテレサ・ロックウェルだった。
 予想外の相手に驚いたが、テレサが座る様に促すと硝悟の正面に向かい合わせる状態でソファに腰掛けた。

「ようこそ。突然の依頼にも関わらず、御協力頂けて感謝しているよ」

 座りながら2人に一礼をしてから、詳しい話はテレサから切り出した。

「話はメールで確認していると思いますが・・・・・・プロモーション映像を作る為の役者を探していました。先日のライバル・オブ・ケイブで見た御二人の行動力と判断力・・・担当スタッフと支配人が見た中で一番の役者だと確信させて頂きました」
「私もアート使いの一人。しかし、君達の様な若さ溢れる躍動感を見る限り、これにはプロの役者は敵わないと思った。スタッフ達と話し合い、アート共存の第一人者である風学生徒ならば、存分にアート共存と云うテーマの素晴らしさを伝える事が可能だと確信させてもらったよ」

 ある程度の話はメールで通っていたのとPV撮影参加の意向を示していたので、そこから先の話はスムーズに進んだ。
 撮影に関する打ち合わせは、実際の撮影会場で行う事となり、4人は早速現場へと移動開始した。
 現場と言っても、BW敷地内の直営スタジオとなっている。

 スタジオに到着すると専用の控室に通されたのだが、清正と朔刃が女性と云う事から硝悟・テレサとは此処で解散する事となった。

「それでは、期待していますよ。頑張って下さいね」




「挨拶なら、ホテルを出る時でも良かったのにねェ?」
「ああいう所が、支配人の良い所なのですよ」
 朔刃が呟いた一言に、メイク担当スタッフが笑いながらフォローを入れた。

「透波さんのメイクが終わりましたら、樹嶋さんのメイクを行いますね。ドリンク御用意致しますが、何にします?」
「うーん・・・・・・わたしは烏龍茶、ホットで」
「同じ物を」


 清正のメイク待ち中に、PV撮影の内容を確認し始めた。

 テーマはBWの代名詞でもある「アートとの共存」。
 アートを悪用する強大な敵との闘い。
 敵は恐ろしく強く、苦戦を強いられて希望を絶たれそうになった。
 しかし、諦めないと云う想いを呼び起こしてくれたアートとの絆のおかげで、敵を凌駕する程のパワーを得て敵を倒す事に成功。
 ・・・・・・と云う内容となっていて、朔刃と清正は「強大な敵」と戦う役だった。



 30分後、メイクや説明などを終えた2人は撮影現場へと移動した。
『清正殿、御用意の方は?』
「大丈夫だ。メイクなんて滅多にしないから、ちょっと不思議な感じ・・・・・・頑張るぞ」
「清正も赤月も気合入ってるみたいねェ?」

「コチラが撮影現場です。アートの御用意お願いします。どうぞ、お入り下さい」

 スタッフがインカムで他のスタッフに何か連絡を交わしていたが、2人はスタッフに会釈をするとアートを隣に出現させながら扉の中に足を踏み入れた。

 カッ!と、眩しい光が飛び込んで来たので、2人は思わず目を瞑った。
 少し時間を置いてから目を開くと、目の前に飛び込んで来た景色は、古代ローマ時代に建てられたかの様なドーム型の闘技場。
 観客席には満員の観客が居て、2人の入場と同時に歓声を上げていた。

「な、な、な。何コレ!!こんなに盛大な撮影だったの!?・・・・・・さすが世界的に有名な人のやる事は違うわねェ・・・・・・」
 朔刃は最初こそ驚きを隠せず興奮状態だったが、坪ノ内硝悟の知名度を思い出したら、この様な盛大な場に納得が出来る。
『しかし・・・・・・役者・・・いや、観客の奴等はエキストラになるのか?軽く見た限りでは200人は居るんじゃないか?』
 朔刃と対照的に、桂丞は観客席を一望しながら観客の顔触れを見ていた。
 Tシャツにデニムパンツのラフな私服・パーティードレスに身を包んだ富豪層・スーツ姿のビジネスマン系など、バラエティに富んではいたが、服装どころか年代・国籍にも統一性が無く、どんなコネクションでこれ程までの観客を用意する事が出来たのだろうと思わずにはいられない。


 2人(+アート2体)は観客の熱気に飲まれそうになっていたが、突如として会場のスポットライトが落ちると、荘厳なBGMと共に、アリーナ席と思われる場所にピンライトが当たり、ライトに照らされた人物の顔が特大モニター画面に映し出された。
 そこに居たのは、坪ノ内硝悟だった。

「坪ノ内硝悟・・・・・・え?どういう事だ?」
 清正は目を凝らしながらアリーナ席に居る硝悟を遠目で確認したが、話に聞いていた内容と違っている。
 まず、坪ノ内硝悟の登壇は無いと聞いていたのだ。
 その硝悟は観客から拍手で歓迎されていて、拍手が一通り鳴り終わった所を見計らいながら、硝悟の横に居た司会者と思われる男性がマイクを持って立ち上がった。


「皆様、いよいよメインイベントの時間がやって参りました。BWが誇るアート使い『テレサ』の入場です、どうぞ拍手で御迎え下さい!」

 朔刃と清正が出て来た扉の向かい側の扉が煙幕と共に開く。
 何度か顔を見ていた硝悟の秘書のテレサが、カッチリとしたスーツ姿では無く、身体のラインが大胆に強調されているボディースーツ姿で観客の目の前に現れた。
「朔刃殿、桂丞殿・・・・・・これは、どうやら・・・・・・」
「どうやら・・・って感じよねェ?」

 「こういう状況」には百戦錬磨で慣れている風学生徒らしく、テレサが入場するより前に不審さを感じていた清正は、入って来た扉から出ようと目論んでいたのだが、扉は押しても引いても叩いても開かない状態だった。

 清正と朔刃、そして赤月と桂丞は臨戦態勢を整えながら、向こうからの出方を待っていたが。

 ひゅん。
 
 2人の背後にテレサが飛び込んで来た。
 完全に虚を突かれた2人は「テレサが居る」と云う事を認識する寸前、テレサの繰り出した掌底が2人の背中を撃ち付けた。

 2人の身体が数メートル宙に浮き、地面に落下する寸前に互いのアートが2人の身体を受け止める。

『清正殿、申し訳ありません!』
「ん・・・・・・、いや、大丈夫だ・・・・・・迂闊だった」
 背中の衝撃に咳込みながらも、心配する赤月に大丈夫だと云う返答をする。

『お前ら、すぐに立て!もう一つ来るぞ!!』

 桂丞の言葉と同時に、何者かが武器でありアートであろう巨大な旗を、まるで槍の様に振り翳しながら、4人の頭上から落下して来た。

「来たーーーーー!!皆のヒーロー「シグナルレッド」登場ォォ!!」

 2人目「シグナルレッド」の攻撃は上手く避けたものの、轟音と余波が響き渡った。

「おおっとぉ~!生贄ちゃん、2人の一撃だけでは倒れない!!これは、熱いバトルの予感!」
 司会者のハイテンションな実況に、観客席から盛大な歓声が上がった。



「【屋外クリーンスタッフ「国谷亘(くにや わたる)」】・・・・・・素晴らしい。テレサが自ら選んだスタッフだと言っていたが、見応えが有りそうだな」

 テレサと共に立ちはだかっている「シグナルレッド」の正体は、テレサが選んだスタッフだった。
 硝悟はテレサに絶対の信頼を向けているので、スタント系スタッフで無くてもテレサの目に間違いは無いと確信しているし、テレサも自信を持って推薦していたので、問題は無かった様だ。


「テレサ。やはり君は私の最高のパートナーだ」


 テレサのアート・両腕用のガントレット【エトワール】。
パワーを込めた事で、エトワールの先端部分に大振りの刃物が出現した。

 シグナルレッドのアートは、1メートル前後の長さの黄色い旗。
 柄を持って器用に振り回すと、旗の布地が風に靡いてキラキラと輝いている様に見えた。




「誰が「生贄ちゃん」だっつーの!」

 悪態を吐きながらも、朔刃の視線の先は、楽しげに見下ろしている人物を捕えた。
 すぅ・・・・・・と、息を吸い込むと、腹の底から叫んだ。


「坪ノ内硝悟!!首とか洗って待ってなさい!!」






■登場人物紹介■
江國優作(男性/17歳/高等部2年/青朗狗/アート:リィンカネーション/人型)
樹嶋朔刃(女性/17歳/高等部2年/青鋭蛇/アート:桂丞/人型)
グリュック・アードリガー(男性/21歳/大学部4年/青麗蜃/アート:アシェ/人型)

四御神砂(男性/15歳/高等部2年/黒砕竜/アート:采/人型)

滝里心露(女性/19歳/大学部1年/白仁隼/アート:ディルシャーン/物型)

王瀬・ラピメント(男性/19歳/大学部1年/紅貴虹/アート:トイ・ダイス/物型)
ヘルウェンディ・ウィンスレット(女性/17歳/高等部2年/紅麗蛇/アート:三刃鎌スネール/物型)
夢幻香澄(女性/19歳/大学部1年/紅烈桜/アート:月影)

透波清正(女性/13歳/高等部3年/黄仁蜃/アート:赤月/物型)
四御神礦(女性/20歳/大学院修士課程/黄艶鳳/アート:ミットシュルディガー/物型)
柴塚蒔和(男性/17歳/大学院修士課程/黄狂蛇/アート:イリデッセンス/獣型)


坪ノ内硝悟(男性/35歳/BW支配人/白瞬猩/アート:ミスティ/人型)
テレサ・ロックウェル(女性/29歳/秘書/青流竜/アート:エトワール/物型)

シグナルレッド(BW男性スタッフ/アート:?/物型)

  • 最終更新:2012-06-16 23:18:51

このWIKIを編集するにはパスワード入力が必要です

認証パスワード