第13話:表裏開宴

【ホープ vs ディスペア】

 新施設「ドーム劇場」専用の室内ショーイベント。
 トラストシステムを最大限に利用するという、BWならではの参加型ショー。

 ストーリーは子供向けとなっているものの、トラストシステムの利用が最大の売りとなっているので、アート研究者にとっても興味深いアトラクションである事は間違い無い。

 劇場内にステージは1つしか用意されていないので、幾つかのグループに分けられて観賞している最中だった。
 ネタバレを防ぐ為、この劇場での端末システムは使用不可能となっている。

 そしていよいよ最後のグループの時間になり、ラストグループの生徒達が劇場内に入場した。

 「アートと隔離された状態」と云う演出上、まずは観客席とアート席に分けられる。
 観客とアートの間には仕切りが作られていて、「席」と言うよりパーティションの様なスペースだった。
 生徒とアート、それぞれの席に分かれている最中だった。



「それじゃ、シュヴァルツは向こうになるのね?」
『そうですね。エルザ達の方はベルト着用ですか。室内ですから振り落とされないとは思いますが・・・・・・しっかりベルト着用しておいて下さいね』
 こちらはエルザ・フリューリンクとアートのシュヴァルツ。


『カーマイン君、こっち空いてるよ。座ろ~』
『うん、わかったー。光起くん、それじゃ後でね~』

 藤山麻菜のアート・かるび、赤坂光起のアート・カーマイン。
見た目が癒し系マスコット過ぎるので、ほのぼのとした様子にマスター陣は目を奪われている。


「お姉ちゃんのファルニアはルナに持たせておきます。ルナ、お姉ちゃんのアートだから、ぞんざいに扱わないで下さいね」
『オッケー!それじゃ、ファルお借りしまーす』
 こちらは神門涼奈と神門結。
 涼奈のアートのファルニアは物型なので、結の人型アートのシフォルナがファルニアを預かる事になった。

 物型アートの大きさは多種多様なので、意思疎通が可能な人型・獣型アートに物型アートを預けてもらうと云う光景が、あちこちで見られている。



 生徒達が席に着き、アート達も所定の位置に着く。
 開演前の注意事項のアナウンスが流れ終わると、劇場が暗転して開演のベルが鳴り響いた。
 そして、程無くしてステージに照明が灯り、穏やかなBGMが流れて来た。


「うわー。近未来な街だね~。ロボットとか出るのかな?」
「ロボットは正義なのかな?悪なのかな?どっちかなぁ?」
 茶々山緑香と桜彩奈は近未来的なステージを見ながら、これから始まるショーに想像を膨らませていた。


 ステージの両サイドから、黒いボディースーツを着用した「戦闘員」が飛び出し、アクロバティックなアクションを見せながら観客の目を釘付ている。
 一連のアクションが終わると、ステージ中央の中段から煙が立ち、青黒いアーマーを纏った所謂「悪の首領」こと、最大の敵「ディスペア」が現われた。

「この世に蔓延る希望や夢など薄っぺらいものだ!我々の手で、世界を絶望の闇に染め上げてやろうではないか!!うわははははは!!」

 悪役お決まりの口上を述べ終わると、戦闘員達が再びステージ中を動き回っていた。
 そして、戦闘員の激しい破壊活動に何も出来ずに逃げ惑うだけの街の人々(※エキストラ)がステージ袖から飛び出して来た。



「・・・・・・・・・・・・あらぁ~?向こうに居らっしゃるのって・・・・・・もしかして、優作さん・・・ですねぇ~?」
 樹嶋笹女は隣の席に座っていた冴城聖に声を掛けた。
「ホントだ!何してるんだろ!!ってか笹女、彼氏が居なかった事に気付いていなかったの!?」
「別の友達と観るって言ってたの~・・・なるほど、そういう事だったんですねぇ~?」
と、このサプライズ演出を理解した様だった。

「えっと・・・・・・向こうから来たのは、柴塚と心露。センターで止まっていたのは砂。ステージから出て行ってしまったのが・・・グリュッグと十時・・・・・・・・・・・・で、合ってるかしら?」
「合ってるわよぉ~。記憶力がイイのねぇ~?」
 ジル・ミスティレッドと石神井漢人は、エキストラに混ざっていた生徒達を見付け、予想していなかったサプライズ演出に、笑いが込み上げていた。

 そんなサプライズが進行しつつも、物語は最初の佳境に入った。


「ホープめ、貴様の快進撃はココまでだ!!アレを見るがいい!!」
 ステージ奥のセットが動くと、白煙と共に機械で作られた様な巨大なチューブ管が迫出した。

「貴様の大事な仲間は、我々の手中に収めている!」

 人質としてチューブ管に閉じ込められているのは、ヘルウェンディ・ウィンスレット、四御神礦、夢幻香澄、そして何故か女装姿の王瀬・ラピメントだった。

「ホープ、私達は大丈夫よ!」
「アナタは、この世界に残された唯一の希望です!」
「だから、私達とアートの絆を守るために・・・・・・」
「戦って!」

 最後の声だけが男性である王瀬だったので、妙に低音で違和感を感じたものの、人質による迫真の演技が終わると再び白煙が立ち上がり、煙の中にチューブ管と共に人質4人が再びディスペアに捕らわれてしまった。





 ステージ裏。人質組。
「お疲れ様でしたー。皆さん、素晴らしい演技でしたね!」
 エンディングではチューブの中から救い出されると云う演出の都合、4人はチューブの中に入ったまま小休止していた。
「打ち合わせでもお話していましたが、ステージの床が開き、そこから皆さんが再登場という事になりますので、このまま移動します。安全に運搬しますが、中で暴れたり中から叩いたりしないで下さいね」

 4人を乗せたチューブが大道具搬入用エレベーターに乗せられ、次の現場へと移動を始めた。


 次に到着した現場では、スタッフが4人を乗せたチューブ管のセッティングを行い、5分後にセット配置が完了。
 そしてステージ演出のスタッフが4人に指示を出す。
「それでは・・・・・・台本通り、チューブが開いてからホープの元に集まって下さい、その後にホープと一緒に客席に向かってお辞儀でフィナーレとなります。宜しいですか?」

「畏まりました、最後の締めまで気を抜きません」
「香澄ったら・・・・・・堅いって言ってるじゃない?」
「いよいよネタバラシか。楽しみだね」
「既に気付いた子も居るみたいだから、色々と突っ込まれそうね」
と、4人は皆と合流した後のリアクションの取り方を楽しげに相談していた。

「では、移動します。中で動かないで下さいね」

 4人それぞれが乗っているチューブ管が、ゆっくりと移動を始めた。







 楽屋裏。逃げ纏う人々班。
 一足先に出番を終えた一同は、楽屋で一休みしていた。

「出番は短かったけど、なかなか面白かったな」
「せやなぁ。いつか仕事で、ああいうモブ依頼なんかも来た時に役に立つかも知れへん・・・・・・って、んなワケあるかい!」
「まぁ、芸人目指してるなら、可も無く不可も無くって所じゃないのか」
 砂の感想に同意しながら、テンションが上がったままの優作はノリツッコミで場を盛り上げ、それにツッコミを入れた心露。

「はいは~い、盛り上がっている所ですけど、スタッフの方から差し入れですよ~。皆でドウゾって書かれてますが・・・・・・どうしますか?」
 十時がテーブルに用意されているポットと茶菓子が詰まっているバスケットを指した。
「うーん。イリちゃん、生肉じゃないのが残念だね。お菓子でも良ければ食べるかい?」
 蒔和の左肩に寄生しているアートのイリデッセンスは「グルルルルルル」と唸り声を上げている様子だった。
「グラスは5人分ですネ・・・・・・滝里サンから、ドウゾ」
「あぁ、ありがとう」
 グリュッグに礼を言い、グラスにドリンクを注いでもらっている。
 レディーファーストと云う事で、まずは人間・アートを含む女性陣にドリンクを振舞う。

 全員のグラスにドリンクが注がれたのを確認すると、誰が決めたのかは謎だったが、優作が乾杯の挨拶を始めた。

「え~・・・・・・御指名を受けた江國と申します。って、誰の指名やねん!なかなか面白かったイベントやったなぁ。そしたら、おつかれちゃーん。乾ぱ・・・・・・」


 ガシャン!!ガシャガシャガシャン!!


 優作の乾杯の音頭が終わる寸前、全員の持っていたグラスがドリンクと共に床に散らばった。
 何が起こったのだろうと全員が呆気に取られていたが、事の出所はすぐに分かった。
 紐状の様な物が全員の目線に浮いていたのだが、それは心露のアートのディルシャーンだった。

「滝里サン?一体、どうしたのです・・・・・・」
「静かにしろ!!」

 一言だったが、声色に緊張感が籠っていたので、全員が咄嗟に心露に従う様に、これ以上何かを喋ろうとするのを止めた。
 ドアを横目でチラッと見ると、ディルシャーンを全員の身体に触れさせる。


『・・・あたしの声が聞こえていたら、黙って頷いてくれ』


 全員の頭の中に心露の問い掛けが聞こえたので、全員は無言で頷いた。
 それを確認すると、再び話を続ける。

『ディルシャーンが、ドリンクの中に羽部分を浸からせて遊んでたんだけど・・・・・・ディルシャーンを通じて、妙な疲労感・・・って言うのか?・・・少しだけ感覚が鈍っている感じが・・・・・・』

 そこまで伝えると、立ち眩みを起こしてその場に座り込んだ。

「滝里!」
 慌てて砂が駆け寄り、肩を貸しながら心露を椅子に座らせた。

『優作さま。中身を調べてみましたが、このドリンクに少量の筋弛緩剤が混入されております』

 優作のアートのリィンカネーションが指示を受けるより前に、床に零れたドリンクを調べていたのだが、悪戯では済まされないレベルの状況に全員が顔色を変えた。

「つまり・・・・・・僕らは『タダでは帰れない』って状況?ふーん・・・地球人って生温い凝ったマネをするんだね」
 外に声が漏れない様に、全員にだけ聞こえる程度の声量で呟いた。

『オイ、マスター!遊園地スタッフト思エナイ奴等ガ近付イテルゼ!』
 十時のアートのベッキィーが能力を使って、この楽屋に向かっている何者かの気配を捉えた。
『・・・・・・これから来る人に連れて行かれたら、きっと「こわい」事になると思うの・・・・・・アシェも、グーも、皆も』
 グリュッグのアートのアシェも人の気配を感じ取っていた。


「つまり・・・・・・私達の選択肢は「無抵抗で捕まる」「抵抗して逃げる」って事ですかねぇ~?」











 ステージでは、ディスペアの奥の手である人質を盾にされたホープが苦戦を強いられている最中だった。
 ホープの相棒である背の低い女性が、オロオロしながらステージを右往左往していた。

「ホープが負けちゃいそうだよぉ!こうなったら、皆でホープを助けよう!会場のお友達とアートの皆、アートとマスターの絆のパワーをホープに送るよ!準備はオッケー?せーのっ・・・・・・ホープ、頑張れー!!」

 ステージに設置されている巨大モニター画面に『トラストシステム開始。アートと同調して下さい』と云う文字が出て来た。
 ショー開始前にトラストシステムと連動している事を聞いていたので、生徒達と離れた場所に居るアート達は互いに精神集中をしながら同調を行っていた。
 座っている椅子と固定ベルトに設置されているランプが点滅すると、ステージ両側に建っている2本の柱がチカチカと点滅を始めている。

「ああっ、皆の応援パワーがたくさん集まってる!皆、その調子でもっとホープを応援しよう!せーのっ、ホープ、頑張ってー!!」

 この柱がトラストとして利用されており、生徒達から受けたエネルギーを蓄えると、そのエネルギーが高まるにつれて柱の発光が強まっていた。
 そして、会場全体を明るい光が照らし始めた。

「すごーい!!皆の応援のパワーでホープがパワーアップしたよ!!皆、ありがとーー!!」
「皆のパワー、力強くて凄い・・・・・・これなら勝てる!皆が応援してくれたチカラで、ディスペアの企みを・・・・・・打ち砕く!!」
 軽快なBGMが流れ、ホープの動きが俊敏になり、怒涛のラッシュ攻撃でディスペアを追い詰めて行く。
「必殺!ジャスティス・アターーーック!!!」

 ステージ全体に爆炎が立ち上り、ホープの正拳突きがディスペアを捉え、ディスペアは悲鳴と共にステージから退場した。

 ホープはステージから観客席に飛び降りると、ウイニングランの様に観客席に居る生徒達とアートの傍を駆け回っているが、誰も応える事は無かった。

 生徒達とアート一同は、一人残らず深い眠りに入っていたのだから。











 ドーム劇場・地下電力室。

 多数の電力盤が連なっている薄暗い一角に、沖姉妹こと、沖つぐみ・沖いぶきが電力盤を一部を拝借してノートパソコンを操作していた。

「お姉様。最後のグループも全員睡眠状態に入りましたわ」
「了解。コチラも通信開始のサインが出てるわよ。・・・・・・それじゃ、次に移りましょう」






■登場人物紹介■
江國優作(男性/17歳/高等部2年/青朗狗/アート:リィンカネーション/人型)
茶々山緑香(男性/13歳/中等部2年/青鋭燕/アート:くの一桜香/人型)
桜彩奈(女性/12歳/中等部2年/青明鳳/アート:颯/人型)
グリュッグ・アードリガー(男性/21歳/大学部4年/青麗蜃/アート:アシェ)

四御神砂(男性/15歳/高等部2年/黒砕竜/アート:采/人型)
石神井漢人(女性/18歳/高等部3年/黒烈隼/アート:駒/人型)
冴城聖(女性/15歳/高等部2年/黒明桜/アート:クルス/物型)
十時・ツェルバ(男性/20歳/大学部2年/黒礼蛇/アート:ベッキィー)

エルザ・フリューリンク(女性/17歳/高等部2年/白流鳳/アート:シュヴァルツ/人型)
藤山麻菜(女性/15歳/高等部1年/白彩蛍/アート:かるび/物型)
ジル・ミスティレッド(女性/20歳/大学部2年/白艶蝶/アート:ジョーカー)
神門結(女性/17歳/高等部2年/白麗蛍/アート:自由天使シフォルナ/人型)

赤坂光起(男性/15歳/中等部3年/紅鋭虎/アート:カーマイン/物型)
ヘルウェンディ・ウィンスレット(女性/17歳/高等部2年/紅麗蛇/アート:三刃鎌スネール/物型)
夢幻香澄(女性/19歳/大学部1年/紅烈桜/アート:月影)

四御神礦(女性/20歳/大学院修士課程/黄艶鳳/アート:ミットシュルディガー/物型)
神門涼奈(女性/20歳/大学部2年/黄清隼/アート:ファルニア/物型)
柴塚蒔和(男性/17歳/大学院修士課程/黄狂蛇/アート:イリデッセンス)


沖つぐみ(女性/29歳/風学教師・引率/紅艶桜/アート:クローバー/物型)
沖いぶき(女性/20歳/風学生徒・監督生/黄彩蘭/アート:リリア/獣型)

  • 最終更新:2012-09-19 22:16:00

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