第4話:シークレット・サービス


 園内レストランの一角。
 とある女子グループが、ランチを食べながら談笑をしている。

「それにしても、他人の状況を見るのも面白いモンだね」
と、冴城聖。
「あたし達も一度乗ってましたけど、一度乗っていただけに・・・・・・見ていても怖かったです」
と、藤山麻菜。
「怖かったけど、また乗りたい!今度はボクが先頭に乗る!」
と、藤山遊菜。

 先程のコースターのプチイベントを観ていた3人は、自分達が乗っていた時の感想を交えながら盛り上がっている。

「アートが乗って騒いでも能力が暴走するワケでも無いし、普通に楽しむ事が出来るなんて・・・やっぱりBWってスゴイですよね」
 麻菜のアート・かるびにミニトマトを食べさせながら、感心した様子で頷いた。


 BWは『アートとの共存』をテーマに創られたテーマパーク。
 アートやマスターが興奮した拍子で能力を解放する事も少なくないのだが、それを想定した設計及び管理が行われているので、他者への危害は殆ど無い。
 創立者である坪ノ内硝悟が研究開発した、アート能力耐性作用物質の賜物である。


「そそ。あと、遊園地としても最高だもんね。最初に入った【ドリームタワー】、アートと一緒に遊ぶ事が前提のアトラクションだったから、クルスも目一杯楽しんでたよ」
 聖の手首に巻かれたブレスレットのチャームの一部として姿を変えているアート・クルスがキラリと光った。
『当ー然!オレ様の的確な指示が無かったら、スタッフに救出されていたかも知れねーぜ』
「ううん、それは無いです」
 どこからどこまで事実なのかは当人にしか判らなかったが、意気揚々と語るクルスに対し、聖は冷静かつ丁寧にツッコミを入れた。

「麻姉~、デジカメのバッテリーまだ大丈夫?BWの建物とかアトラクション、もっと色々撮っておきたいんだ。見てるだけでも楽しいもん」
 遊菜がデジカメを操作しながら、充電量を何度も確認している。
 そして、アートでヒヨコのピヨ助が遊菜の頭の上から手伝おうと、真剣に(?)羽根をパタパタと動かしている。



「いやー、そう言って貰えると嬉しいぜ」

 3人の側から男性の声が聞こえて来たので、その声を探る前に声の主が現れた。
 ラフな格好と飄々とした風体で、顎鬚を生やした青年だった。
「・・・・・・えっと、どなたですか?」
 麻菜が戸惑いながら尋ねると、その青年はニッと笑ってみせる。
「ハハッ。聞き耳を立てるつもりじゃ無かったけど、たまたま聞こえて来たもんだから・・・・・・つい、な?」
 そう言いながらも、悪びれる事も無く、馴れ馴れしく応えた。
 あまりにも砕けた態度に、警戒心が削ぎ落とされる。
「おっと、名乗らないと通報コースだな・・・・・・こんにちは、オレは一応こーいうモンだ」
 名刺を渡すと、3人は渡された名刺と青年の顔を交互に見ながら驚いた様子を見せた。
「うっそ、このBWのデザイナーさん!?」
 遊菜は思わず椅子から勢い良く立ち上がり、青年に向かって指を指して驚いた。
 頭からピヨ助が「ビョ~~!」と、鳴きながら落下していた事に気付いていない。
「遊菜ー!人に向かって指を指しちゃいけませんっ!あわわ、ごめんなさい!」
「いーよいーよ、そのぐらい」
 遊菜の一連の行動を慌てて咎めながら謝罪する麻菜。

 デザイン界の新鋭こと、BWデザイナー・神坂潤は、ケラケラ笑っていた。









「―――と、云うワケで。こっそり視察してたワケさ」

 すっかり意気投合した神坂は、いつの間にか女子席に混じって寛いでいた。
 
 話を要約すると、風学生徒が訪問するイベントの話を聞き、視察と云う名目で遊びに来ていた。
 以前は時間を見付けては頻繁に遊びに訪れていたのだが、最近は他所からの仕事も増えたので、BWに来る機会が少なくなっていた。
 今回はアート使いの専門校である風学生徒ばかりが集っているので、現場の声を聞く為にと無理矢理に時間を作って滞在している。
 

「ところで・・・・・・同じアート使いとして、キミ達の学園に興味があるんだ。新アトラクションの参考にもしたいから、何か面白いネタとかあったら教えてもらえないか?」
 ニッと笑い、自分の端末機を開いた。
「勿論、タダとは言わないぜ。アトラクションの裏技的な情報提供で良ければな」

 それを聞いた遊菜は情報のメモを執る準備をしながら、これから遊びに行くアトラクションに思いを馳せて目を輝かせている。

「うーん・・・・・・何から教えようかな」
「何でもイイって。もしかしたら、わたし達のアイディアが採用されるかも知れないもんね」
「そうそう。その時は、支配人に頼んで君達を優先的に招待してあげるよ」
「「「わーい!」」」

 盛り上がる3人を見て、微笑ましい気持ちになる。

「たとえばー。すっっっっっごくムカつく風紀委員にヅラを被せる為に私設組織を立ち上げたり、ちょっとした事故で江戸時代にタイムトラベルしちゃったりとかね!」
「ボクは、魔女と友達になったよ。魔女っ子チームを結成して、ちょっとしたミラクルを起こした事もある!」
「あたしは・・・・・・夏休み中、正義のロボットと共に異次元の悪と闘ったり、皆の推薦で魔王さんになった程度です」

 可愛らしい女子3人の華やかな(?)学園生活の末端を聞き、潤のイメージしていた『毎日が冒険』の予想を早い段階で超越していた。

「へー・・・・・・想像していたよりスゴイね」
と、応えるのが精一杯だった。

「こんなの序の口、ちょー普通!」
 どや顔を見せながら、自信満々に胸を張る聖の背後に忍び寄る人影。

「ひじりーーーん!!!」
「うっひゃああああああ」

 背後から肩を抱きすくめられていたが、何が起こったか判らずパニックを起こす。

「・・・・・・聖、大丈夫?もう。朔刃ってば、放してあげたら?」
 金髪ロングヘアが視界に入ったが、その主の顔はジル・ミスティレッドだった。
「もー。これぐらいのハグはアタシの愛情表現よ」
 制止を言い渡された犯人(?)樹嶋朔刃は渋々と腕を解いた。
「ハグの為に、一旦荷物を預ける程の表現か。激し過ぎると思うぞ」
「頼んでくれたら、ワタシが代わりにハグしてあげたのにぃ~」
 冷静に分析していた透波清正と、意見が少々ズレている石神井漢人。

「こんにちは。皆さんもランチタイムですか?」
 麻菜が来客に挨拶を交わしている間に、聖は息を整えながら朔刃と対面した。
「朔刃姉、気配を消した背後奇襲は勘弁って言ってるじゃん!」
「ゴメンねー。ひじりんを見付けたから、ついやっちゃった」
「衝動に駆られたのねぇ~。その気持ち、判るわぁ~」
「でしょー?」
「判るなぁぁぁ!」
 
 武闘派の朔刃にとって気配を消す行為は難しい事では無い。
 仲の良い姉妹の様に接し合う付き合いと言えども、こういうイタズラに使われては聖の身が持たない。

 ある意味、傍迷惑な意見に同意した朔刃と漢人にピシッ!と、ツッコミを入れた。

「ところで、コチラの方はドナタかしらぁ~?」
 3人の遣り取りの収束を見計らい、漢人が神坂に向かって尋ねた。

「BWデザイナーの、神坂潤さん!パンフレットにも載ってるよ」
 遊菜が神坂を紹介すると、テーブルに広げていたパンフレットの【BWデザイン総括 神坂潤】のページを見せた。

「え、本人!?遊菜、アナタ達いつからそんな有名人と知り合いになったのよ!?」
 ジルが目を丸くしながらパンフレットと神坂を交互に見る。
「初めまして、神坂です。君も4Daysに参加してる風学生徒だろ?」
「Yes・・・Hey,Guy!Nice to meet you!」
 有名人に興奮したジルは、思わず自国語に戻って挨拶を交わした。
「で、3人はココで何をしていたんだ?」
 ジルに続いて、清正も会釈をしながら挨拶を交わした。
「えぇ。BWアトラクションの裏情報を伺った御礼に、風学の生活光景を教えていました」
「皆も何か教えてあげたら?ボクらみたいに、アトラクションのプチ情報とか教えて貰えるかもー」
 姉妹が言いあながら、神坂の方を向いた。
「ま、ギブ&テイクって感じだな。君達の学園生活は毎日が冒険だらけで楽しそうだ。オレも入学してみたいぜ」
 そう言うと、全員からワッと笑いが上がった。





 聖達のテーブルの横に席を取った朔刃達は、店員にランチセットを注文してからようやく一息吐いた。

「じゃあ、何から行こうかしら?けど、アタシは2学期からの転入だから皆よりは情報が少ないわよ?異世界留学生の為に奔走してたとか、世界中のアート存続のために一肌脱いたとか、その程度よ?」
「わたしは・・・・・・1学期の頃、ネット少女救出作戦に参加してた事。他には学園行事を使った異世界・・・宇宙もあったけど、異種族同士の交流かな?」
「アヴァロンのアレ、懐かしいわねェ。あとは、学園祭で「正義と悪と異種族」三つ巴の戦いかしら?勿論、アタシ達の勝利よ」
「宇宙交流は懐かしいわぁ~。何せ、宇宙人と交流するのは初めてだったから、どういう接待をしたらイイのか悩んだものねぇ~」

 順に、ジル・清正・朔刃・漢人、それぞれの日常を掻い摘んで教えている。

 麻菜達に聞いていた話だけでも充分だったが、更なる話に神坂のキャパシティーが限界になりつつあった。


「映画や小説みたいな世界だ・・・・・・百聞は一件に如かず。って、本当に有るんだな」

 再び、こう返すのが精一杯だった。

「他にも・・・大天魔襲来、大いなるチカラ、七つの大罪、アート消失未遂、怪盗ZERO・・・とか、数え出したらキリが無い。でも、あまりにも大き過ぎる学園外の事件については、あまり口外されていないぞ。警察の管轄の仕事を生徒達が解決している事もあるんだ。所謂、世間体ってヤツかな」

 補足として、清正が更に付け足した。

「ははは、メモ帳が足りないぐらいの話、ありがとうな。今後のアトラクション用に参考にさせてもらうよ」







「それじゃ、お腹も満たされたトコだし。そろそろ遊びに行こう!!」
 遊菜が一番に立ち上がって、出発の合図を出した。
 それに応じる麻菜と聖。
「朔刃姉や皆、せっかく会ったんだから一緒に行こう?」
「アリガト。もう少しで食べ終わるから、次の場所でも選んでもらえるかしら?」
 そのお願いを待っていたかの様に、遊菜の目がキラーンと光った。
「ふっふっふ、心配御無用!ボクが選んでおいたよ!次は【ライバル・オブ・ケイブ】だよっ!」
 いつの間に。と、誰もが思ったがツッコミは入れずに事を進めた。
「このアトラクションはね、4人以上8人未満じゃないとダメらしいんだ。だから、皆で挑戦したい!!」
 ジルが食後のコーヒーを飲みながら、全員の頭数を数えて納得した。
「ココに居る全員で7人。丁度イイじゃない、その案に乗ったわ!!」
 ジルは遊菜とハイタッチをしてOKのリアクションを見せ、ジルの横では漢人が小さく両手を挙げて「いえーい♪」と云うポーズを取っている。

「8人でも良くね?」

 8人目の立候補者は、一部始終を見ていた神坂だった。
「え。でも・・・・・・仕事中じゃないの?」
「いや、視察中だって言えば大体何とかなるって」
 聖が怪訝そうに尋ねるが、神坂本人は手をヒラヒラさせながら笑った。


「設計者が自らが裏技公開するなんて、前代未聞だぜ?」

 アートであるマントの【華翔】を装着しながら立ち上がると、悪戯を思い付いた子供の様に笑った。














 一方その頃。
 BWシステムセンター アトラクション管理部。
 ここで先頭に立って指示を出しているのは、支配人こと坪ノ内硝悟だった。

「トラブルシート・パターン⑤、展開準備が整い次第、直ちに私へ報告する様に」


「報告します。スタッフ全員、担当の持ち場に着きました」
「報告します。途中退出用非常口、ロックしました」
「報告します。安全装置、レベル2まで減退完了しました」
「報告します。生徒の入場を確認しました」

 スタッフが、それぞれのシステムの最終確認を終え、硝悟に次々と報告をする。


「裏コードNo5≪測量≫展開開始。対象は【ライバル・オブ・ケイブ】」

 

to be Continued...




■登場人物紹介■
坪ノ内硝悟(男性/35歳/BW支配人/アート:ミスティ/人型)
神坂潤(男性/30歳/デザイナー/アート:華翔/物型)

樹嶋朔刃(女性/17歳/高等部2年/アート:桂丞/人型)

石神井漢人(女性/18歳/高等部3年/黒烈隼/アート:駒/人型)
冴城聖(女性/15歳/高等部2年/黒明桜/アート:クルス/物型)
藤山遊菜(女性/11歳/大学院修士課程/黒麗桜/アート:ピヨ助/獣型)

藤山麻菜(女性/15歳/高等部1年/白彩蛍/アート:かるび/物型)
ジル・ミスティレッド(女性/20歳/大学部2年/白艶蝶/アート:ジョーカー/物型)

透波清正(女性/13歳/高等部3年/黄仁蜃/アート:赤月/物型)
 

  • 最終更新:2011-09-19 01:12:29

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